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新・保護者^2 その4

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「夏だねぇ……」
 いつしかアスファルトを焦がす熱気や蝉の声よりも、荒れる掲示板とかを見て呟かれるようになった常套句。もっともそれを一番強く実感するのは、やはりこーして文明の恩恵を受けて、人事のよーに傍観を貫く時だろう。
 ああ、このまま溶けたアイスのように潰れていたい。
「あれ?」
「おやユキさん。休憩ですか?」
 幸いなことに、昨年から導入を許されたエアコンの恩恵を感受しつつ、ソファーに溶けていると、午前中の宿題を終えたらしきユキに遭遇。
「ねー、アイスコーヒーでも飲もーか?」
「ってそんなことよりも!! なんで月曜日からそんな暢気にくつろいじゃってますか!? おねーさん今日からお仕事じゃなかったんですか?」
「あ、うん、途中で嫌んなって帰ってきた」
「いいんですかそれでっ!?」
「急に熱気が来たので」
 わが国代表のプレーヤーがした歴史的名言でお茶を濁してみるがまあ説得力ないなこの言い訳。
 ……なおも不安げなユキに、仕方無しにだらけた体を起こしてみる。
「ああもう、そんなに信頼無いかな私。別にあれだよ? 夏休みとか有給は取得しないと怒られるんだからね? そもそもユキが一人で家で留守番してるときに私が仕事して表にいるなんて、無用心もいいところでしょ?」
「……おねーさん……」
「そんなわけで、特別用事もないですがユキを徹底的に可愛がるためにお休みしました!!」
「だ、ダメな大人がいますようーっ!?」
「もぉ、ダメじゃないってば。大事なことですよ? というわけでユキ、ぱんつ見せて。もういっそ今日はそのために休んだといっても過言じゃないのです!! 私がいないと思ってちょっと油断したユキがありのままの姿で穿いてるぱんつにおねーさんもう興味津々」
「い、いろいろ最悪ですようこのひとーっ!?」
 さて、そんな今日のユキのぱんつはどんなでしょうか。チェックの時間を前に、胸のドキドキを抑えつつ思わず正座して備えるわたくし。
「いや待ってくださいその躊躇なくスカート捲らないでくださいーっ!? え、あの、ええっと、おねーさん、あの、それってそんなに大事なことでしょうかっ!?」
「大事だよぉ。夏は汗かきやすいし、ちょっと油断するとかぶれたり日焼けしたり。この季節はこまめに下着は替えなきゃダメ。……なのでおねーさんがじゅーぶんに検分した上に穿き替えさせてあげましょう。じっくりたっぷりねっぷりとねー」
「ひう!? あ、あの、その擬音は着替えにはあんまりにもふさわしくないといーますか、おねーさん、……仮に冗談だとしてもお昼前からその、そーゆうのはあんまりよろしくないと思うのですがっ!! そ、それに昨日も一昨日もえーと、わたしの記憶が確かならですね夏休み入ってからもうずーっと毎日おんなじことをですねーっ!!」
「いいから」
「よくないですようーっ!? な、なんにもよくないのになんですかその堂々っぷりはーーっ!? ひぅ!?」
「よし、じゃあ直接ふにふにしよう。うん。それがいい」
「しししし、しなくていいですからーーっ!!? ま、間に合ってますようっ!? あとなんか段々主旨ずれてきてませんかおねーさ、うひぁあ!?」
「まあ、別にユキのぱんつさえあればあとはどーとでも」
「酷すぎますっ!! あう、お、お助けをーー!?」
 嗚呼。
 夏だ、なぁ。



 (続く。)




 酷い。実に酷い。
 まあぱんつさえあれば概ね夏はどーとでもなります。

新・保護者^2 その3

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 ちん、と鳴る鈴の音。
 こんなにちっこく慎ましやかな我が家ながら、その片隅に小さく備えられた仏具はこの季節の定番であったり。
「……おねーさん?」
「本当は墓参りとかしなきゃいけないもかもしれないけど、まああんまり歓迎されてないだろーし」
 正直、そんなに迎えたい相手でもないんだ。ごめんなとーちゃんかーちゃん。親不孝な娘で。
 どーしたもんかと思っていると、隣で一緒になって手を合わせているユキがぽつりと。
「そんな事は、ないと思いますよ。……わたしのおとーさんもおかーさんも、おねーさんにはとっても感謝してます。確かにおねーさんは事あるごとに家主の立場を利用してわたしに破廉恥な振る舞いを強いて、辱めちゃうことに至上の喜びを見出しちゃうよーなかたで、頭の中は八、九割くらいぱんつのことばっかりで、社会人としてどうかと思うくらいぐーたらで、いつニートになっちゃうのかって不安になるような困ったとこもいっぱいありますけど、いえ、ありすぎて困るくらいですけど」
「……ぅあぅ言うねユキさん?」
 それはあれですか。親の前だからですか。出来の悪い保護者としていろいろ密告されてますか。ううむ。
「でも、わたしは、……いま、さびしく、ないですから」
 ユキが自分のことを、“いらん子”だと言っていたのは、確か一緒に暮らし始めて間もなくのことだったか。
「おねーさんといっしょにいられて、たのしいし、うれしい、です」
「ん」
 ユキの頭に手を乗せて、わしわしと頭を撫でる。
 武士の情け。顔は見ないであげることにした。乙女として見られたくない顔ってのは、あるもんですからな。
「……水羊羹でも食べよっか」
「はい。ご一緒しますよぅっ」
 赤い目元を擦って、くすぐったそうに眼を細める少女の仕草に、わけもなく胸が温かくなった。





「……ところでもし私が不幸にして先立ってしまったりしたら、お供え物はおーがにっくなこっとん100%のぱんつがいいなぁ。奮発して3枚千円くらいで。迎え火のときと送り火の時に、もう古くなって穿けなくなったやつとか燃やしてくれるとなおいいかも。もう飛んで帰ってきちゃう」
「い、いろいろ台無しですようっ!?」




 (続く。)





 あんまり酷くなかったんで追加。それもどうか。

新・保護者^2 その2

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 色紙さらさら金銀砂子、机の上にはさらさら笹の葉。
 7月7日の空はあいにくの曇り空となりそうな気配だったが、まあ恐らく人目を忍んで織姫彦星も一年ぶりの逢瀬でよろしくやっておるのだろう。

「えーと、今年もユキが私好みのぱんつを見せてくれますように……と」

 ニュースを聞き流しつつ短冊に思いのたけをぶつけていると、着替えたユキがきょとんとこちらを見ていた。

「……あれ? おねーさん、今日ってお仕事じゃないんですか?」
「うん。お休み。で、ついでに七夕だからお願い事でもねって。ユキも一緒に書かない? えっと、次は……そうだな、ユキが素直に1日1ぱんつしてくれますように……っと」
「………………………………………………………………。
 ……えーと、内容については、いい加減もうおねーさんのしてることなんでスルーしたほうが良さそうなのであえて触れないことにします……」
「長いな葛藤。まあいいや。おいでおいで」

 ちょいちょいと招いてやる。ユキはなんとなくためらいがちに短冊を手に取りつつ、

「……えーと、おねーさんがお仕事クビになりませんように……もう手遅れかもですけど……」
「ひどっ!? 確かに平日昼間っからこんなことしてるけど別に無職じゃないよ!? 確かに久々の連載なんだけどね!!」
「連載ってなんですか連載って。でも、どーしたんですか? こんな急に」

 こくん? と首を傾げるユキ。ああもう可愛い。このへんの仕草をナチュラルにしてるあたりがもういっそ犯罪的。

「……だって、最近ユキってば冷たいんだもん。ぜんぜんぱんつまふまふさせてくれないし」
「す、拗ねないでくださいいい歳してっ!! ふ、ふつーはですね、おねーさんのような人がわたしにそーゆうの要求するのはおおむね犯罪なんですからっ!! ……そ、それに、ちゃんと一緒にお風呂とか、……寝る時だって、いっしょに、ですね……」
「だいじょーぶ。すきんしっぷの一環だからへいきへいき。ちょっとこー、上から湿ったり濡れたり透けるかなーってくらいまで触ったりするのはまだまだぜんぜんなんてことないレベルだよ私の中では」
「わ、わたし基準ではあまりにもディープ過ぎますからですねーーっ!?」

 ぼん、と頭から煙を吹いて叫ぶユキ。

「まあだから、もう少しユキにも積極的になってくれると嬉しいなあって思って」
「……あの、それ実は遠まわしな脅迫なんじゃないかって思ったりするんですけど……」
「あそうだ。ぱんつに書いて吊るしたほうがもっと効果ありそうな気がしてきた」
「ありませんようーっ!? な、なんですかその思考の跳躍はっ!? 言っておきますけどやったりしちゃダメですからねおねーさんっ!? どこの奇祭ですかって感じになっちゃいますからねっ!?」
「よーし、いっちょやってみるかっ!!」
「ひとの話1ミクロンも聞いてませんねおねーさんってばあいかわらずっ!! そんな爽やかな顔してもダメですようーっ!?」
「えー? でもほら、針供養みたいな感じで、日ごろお世話になりましたっていう意味も込めて、使用済みのやつをこーいうふうに。ね? というわけであらかじめ用意しておいたものがこちらに」

 夜空に舞う笹の葉ぱんつ。ふわふわ。

「いいいいいい、いつの間に勝手にそんなもの作っちゃってますかおねーさーんはっ!? あああ!? く、くろーぜっとの中がからっぽにっ!?」
「昨日徹夜した甲斐あったなぁ……」
「や、やりとげた女の顔してもダメです!? そ、そんなことのために徹夜しないでくださいっ!! おねーさん、明らかに計算づくですね!? あ、あといまさらながら使用済みとかそーゆー生々しい表現は禁止ですようーーっ!?」

 ……計画通り。

「うぅ……わかりました、わかりましたから、……どうかこれ以上ご近所の評判をおとすよーなことはですね……」
「わぁいお願いかなったー!! 七夕ってすごーい!!」

 あとで思いっきりユキに怒られた。
 理不尽だと思う。




 (続く)

新・保護者^2 その1

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「ユキ、帰ってる!?」
「おねーさん? 随分お早いお帰りですね? 今日、歓送迎会あるから遅くなってお話が確か――」
「そんなことどーでもいいのよ大変大変よ一大事!! 今日はぱんつを穿いてると死んじゃう日なのよ!? だからすぐ脱ぎなさいさあ早く早くほら早くほらほらさあほらすぐに今すぐにっ!?」
「……史上最低のエイプリルフールですようーーっ!?」

 実に嫌そーな顔をして返された。

「……つまんないの。上手くいくと思ってたんだけどなぁ」
「そんなわけないじゃないですかっ!? むしろあれで騙されるって思われてたことが少なからずショックですよぅ……わたし、そんなにアホの子さんだと思われてましたか……?」
「うん」
「即答されましたっ!? す、少しはためらってくださいようーーっ!?」



 (短いけど続く?)

Re:保護者^2 その15

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 それはまあ、大して意味もない日常会話の延長のような独り言だったのだが。

「あのさ、ユキ」
「はい? なんでしょうかおねーさん」
「お正月も明日で終わりだしさ、ちょっとお願いがあるんだけど……いやほらそんな警戒しないでってば。たいした話じゃないから」
「……い、いくらおねーさんのお願いと言えどももうお年玉と称してわたしのぱんつをやたらめったらに搾取するよーな恐ろしい取引には応じませんですようぅ!? の、のし袋もぱんつも似たよーなものって言いますけどねっ、あれって白いところしか共通点ないじゃないですかっ!!」
「えっと……そんなことしてたの、私?」

 ふぅーっ!! と威嚇を崩さないユキの様子に、胸に手を当てて考えてみる。
 ……うん、まあ。したかもしんない。

「いやほら、そーゆう話じゃないから。どうどう」
「うー? ……ホントですよね? クリスマスの時みたいに靴下の代わりにするからって脱がしたりもしませんよね? 大晦日みたいに除夜の鐘が鳴るごとにいちまいずつ持ってっちゃったりもしませんよね!? あれおねーさんの煩悩増えてるだけですようっ!? こっそり書き初めに使ったりするのも絶対に禁止ですし、それに気付かれたからって開き直って、……あろうことか、ちょ、ちょくせつわたしが穿いてるのにか、書こうとするとか!! 着物の下にぱんつ穿いてるのはマナー違反だよでもそれもこーゆう楽しみもあるからいいよねうふふふふとか言いつつおねーさんはいったいどんだけヘンタイさんなんですかっ!? あ、あと、あまつさえ『ぱんつ命』なんて書いたのを晴れやかな顔で凧に改造して空に飛ばしたりなんかもう二度と絶対完全完璧にダメですようーーっ!?」
「えーっと……」

 このひと冬でどんだけ鬼畜や私。

「やだなぁ。ユキと一緒に過ごす年末年始がとても嬉しくて、ついつい理性のたがが外れちゃったんじゃない」
「そ、それはふつーは一番最後まで壊れちゃいけないトコですよぅ!? う、嬉しくてもそーいうものは理性あるオトナとしてしっかり外さないよーに管理するものでしてっ!? あとおねーさんはもう少し頭の中にある考えるための機能を使って行動すべきだと思いますようーっ!!」
「はっはっは。すげー言われようだね私。でもそんなふうに私を狂わせてしまうユキのましろことーんぱんつが何もかもいけないのですよ」
「さもわたしのせいみたいにっ!? な、なんか痴漢に逢っちゃうのはおんなのこのほーにだけ問題があるみたいなとてつもない暴言を吐かれましたようっ!?」

 まあ、ユキにそんな感じの雰囲気があるのは否めなくもなく。

「……ああ、違うちがうそーじゃなくて。……あやうくユキをからかうのに夢中になって本題忘れるとこだった」
「…………うー……?」
「ふぅ……あぶないあぶない。危うくユキのぱんつかぶって目隠しして福笑いとか、やり忘れてたイベントに突入しちゃうトコだった」
「しなくていいですようーーーーーーーっ!?」

 ユキ絶叫。一応今年初。

「はぅー……あの、それで、盛大に話は戻りますけど、おねーさん。あの、世間的にはもう何日か前におしまいなんじゃって思うんですが……」
「ああ。そうそう、それだけどさ」

 ぱりん、とお煎餅を齧りつつ。

「結婚してくれる?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………ユキ?」
「ふぁ!? ななななななななななにをおっしゃいますかっ!? なにをおっしゃいますかなにをおっしゃいますかおねーさんはっ!?」
「……三回も驚かんでよろしい」
「だ、大事なことなので3回言いましたっ!!」
「かっきり受け答えしてる割に全然冷静じゃないねユキ」

 3回言ったからどうなるって話だ。
 見てる間に顔の下のほーから真っ赤に染まってゆくユキ。

「ああああああ、そ、それは確かにこんなひんそーなぺったん娘として生きてはいますが生物学的には乙女の端くれの片隅の端っこの風下のほーに、お情けを頂きつつこそっと遠慮がちに座らせてもらわせている身としましては、そーいうぷ、ぷろぽーずみたいなもあのには少なからぬ憧れがありますのは事実なのですけれどもっ!! 日ごろお世話になっているだけではなくこんないらん子の不詳わたくしにそのよーな寛大なおねーさんのお申し出、身に余る光栄で大変にありがたいのですが、やはりと言いますか年齢の差とか学生と社会人の差とか職業とか乗り越えるべき壁はあまりにも大きくあまりにも多くっ!! そも、わたしの年齢ですとそもそも適齢に達していないといいますか、仮におねーさんに待っていただくとしてもかなりの年月を要すると言いましょうか、おねーさんがそこまで待てないのじゃないかと愚考いたしたりする所存でして!! わたしはその、まあ色々と別に、興味がないわけでもないのですけれどもね!? む、むしろこのよーに同意があってもおねーさんがお巡りさんのお世話になってしまうよーな、実にわたしの意志などは無関係なのが現在のこの国の法律とゆー状況でして、やはりここは兎にも角にもああもうそのふつつかものですがどうぞよろしくお願いします新婚旅行はやっぱり京都とかがいいですねっ!!」
「……落ち着け」
「ひんっ!?」

 混乱の極地に達しつつ三つ指付いて深々と頭を下げたユキのおでこをつつく。さりげなく受けてるし実ははっきり分かっててやってるんじゃないだろーかこの子は。
 ……あとおまけに一番大事なところはまるっとスルーされたな。いいけど。

「まあほとんど冗談というか、たいした話じゃないんだってば。暮れにちっと親戚からね、お見合いでもしろって電話があってさ、無論かったるいから断ったんだけど、だったらそんな前提の恋人でもいるのかってしつこくて。もう知ったことじゃないだろって怒鳴って切ったんだけど、それでさ……ってあの、ユキ?」
「うぅ……っ、うわーんっ!!」

 うあ泣き出したっ!? 脈絡無っ!?

「うわぁああーんっ!! お、おねーさんっ!? お見合いですかっ!? ご、ご結婚を前提にどなたかとお付き合いなのですかっ!? ぅ、ひっく……うぁーーーんっ!! や、やですよぅ……置いてかないでくださいようーっ!! い、いらん子ですけど、わたしっ、お邪魔にならないよーに隅っこのほーに穴でも掘ってこっそり埋まってますから……ぐす、お願いしますっ、お、お願いでふからぁーーっ!?」
「えっと……その……なんかゴメン……」
「うぅ……おねーさんっ……おねーさぁんっ……」
「ああもう鼻出てるってば!! ほれ、ちーんっ!!」
「ぐす……ぐすっ……」

 ぐずるユキをなだめつつ。
 ああもうこりゃ今年もこんな感じできっと幸せかなぁ、などと思ったりした。




 (続く。)