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【東方掌編】地底恋愛倶楽部

 大⑨州東方祭の新刊に関連する掌編。
 ある種ネタバレでもありますが、二次設定、キャラ崩壊等にお気を付けください。(いまさらか)





 ▼

 地底に続く深い深い洞穴。かつては地獄への入り口とも呼ばれたそこも、いまは地下に封じられていた妖怪たちの住処。
 湿った風の吹き抜けるその大穴の底で、かなり浮かれ気味な声が響く。
「第56回、地底の燻る恋を応援する会、定例会議ーっ! どんどんどんぱふぱふーっ」
 暗い洞窟をものともせず、テンション高くおーっ、と拳を突き上げて宣言するのは土蜘蛛の黒谷ヤマメ。その隣で、釣瓶落としのキスメが桶から半分身体を出して、ぱちぱち、とまばらな拍手をする。
 照れたようにそれにお辞儀をしてこたえ、ヤマメはどこからか取り出した指示棒で背後を示した。
「じゃあ、今日の検討課題ね! あの子とお話できるようになるには、どうすればいいのか! まずは出会い。インパクトのある衝撃的な出会いが大事だと思うのよ!」
「……うん」
 洞窟の壁には黒板が取り付けられ、大きく『まずはお友達から!』『あの子とお友達になろう!』などとカラフルなチョークで書き連ねられている。
 文字通りの、地底に住む妖怪たちの恋愛相談を受けたり、会員の恋を応援したりするのがこの会の趣旨だ。会長兼相談役のキスメと、書記兼会計と残りその他全部担当のヤマメ。現在会員総数は以上2名である。
 ……一応、会の立ち上げにあたっては顔見知りと言うことでパルスィや勇儀などの参加も検討されたが、前者は声をかけてはみたところ『……ねえあなた、誰にモノ言ってるのかわかってるの?』とガン睨みで返されたため、後者は『いや、ないだろ鬼とか。常識的に考えて』と至極まともな理由により勧誘が打ち切られたため、今のところ新メンバー加入の目処は立っていない。
 なお、定例会議の多くがは地底に続く風穴の中程で開かれ、吹き抜ける風に激しく揺れる糸や吊綱に捕まった状態、というのが地味に参加への難易度を上げていることにふたりともまだ気づいていない。
「それでですねキスメ会長? この前見つけた文献によれば、出会いって、第一印象が相手のイメージの八割を決めるそうなんですよねぇ、ここを成功させるのはとっても大事なのかと思われますよ」
 白衣に眼鏡をかけたキャラ作りまでして、今日の研究発表をはじめるヤマメ。
 ポインターを伸ばしてぺし、と黒板の隅に強調されたメラビアンの法則を示し、ヤマメは指を立てる。
「それで考えてみたんだけど、たとえばこう、登校途中の出会いがしらにぶつかって、ハプニングから始まる恋☆大作戦! みたいなのはどうかねぇ? とりあえずあの子の通りそうなところにこうやって、網をいっぱい仕掛けておいてね、捕まって動けなくなったところを地底に引きずり込んでさっ♪」
「たぶんそれ最悪の出会いだと思うなぁ」
 恋の輝きに目を星でいっぱいにして、相変わらずあさっての方向につっぱしるヤマメに、キスメはこっそりと溜息をついた。
 なお、現在までに開かれた56回の定例会議は、その全てがヤマメの恋に関するものである。



 事の起こりは数か月前。
『――ねえキスメっ、一目惚れって信じるかいっ!?』
 帰ってくるなりヤマメが発したその第一声がすべての始まりだった。
 これまでは隔絶されていた地底と地上の交流開始をきっかけに、地上への横道トンネルを増設していたヤマメは、その先で見かけたとある相手に一目惚れ。一撃必殺のふぉーりんらぶ。
 たちまちヤマメは土蜘蛛から恋する妖怪にクラスチェンジし、寝ても覚めてもその事で頭が一杯。重い溜息をついてはアンニュイな表情で一日を過ごし、病気の管理まで滞る始末。
 旧都一帯に感染性強力な新型インフルエンザが蔓延しだしたあたりでこれはまずいと判断したキスメは、緊急避難としてヤマメの恋愛相談に乗ることになり、以後、ほぼ毎夜の定例会議に付き合わされる羽目になっているのだった。
「うーん。……やっぱりきっかけだよねぇ。最初は普通に挨拶からはじめたりとか。お話するだけでもいいんだけどさ……だけどなぁ……」
 チョークで黒板の端をぐりぐりと擦りながら、眉を寄せるヤマメ。
 誰からも好かれる人気者であるくせに、いざ自分のこととなるとか恥ずかしくて積極的になれない地底のアイドルを、キスメは生暖かい眼で見守る。ヤマメが大事な友達なのは確かなのだが、その恋愛に協力する、というのはそれはそれでいろいろと思うところがあるものだ。
「この前書いてたお手紙とかは?」
「うん、……書くは書いたんだけどさぁ」
 ヤマメはむー、と渋い顔をしたまま、ごそごそとハートマークのシールつきの封筒を取り出した。
「なんて書いたの?」
「まえからお話したいと思ってました。一緒に地底をお散歩しませんか、って」
「へえ、いいじゃない。どうして出さないの?」
 広げられた便せんを、何気なくキスメは覗き込んでみる。そこには新聞を切り抜いたような文字が継ぎ接ぎで並んでいた。


 『 アイたいでス。ずっとアナタを見テイまシタ。
    一緒に地の底までイきマショウ
   もう二度とハナさなイ 』


「怖いよ!! 思いっきり脅迫状でしょこれ!? どこの怪文書っ!?」
 しかも便せんのあちこちにはなぜかどす黒い染みやらなんなのか想像もしたくないような手形までくっついている。よく見ればインクとわかるが、それでも怖い。
「いや、私字書くの下手だしねぇ……新聞の文字拾って使えばいいかなって思ったんだけど。これがなかなかいい文字がないんだよねえ、探してみると。あっはっは」
「下手でもいいから自分で書きなよ!?」
 概ね、ほぼ毎日開催される定例会議では、ヤマメのボケに(天然か意図的なものかは激しく不明だが)キスメが突っ込み、気付けば夜が明けかける、というような事態が頻発している。
 かくも恋というのは人を変えるのだなぁ、とキスメは寝不足の目を擦りながら、知りたくもなかった友人の新たな一面を見ることを続けていた。
「と、とにかくこの手紙はダメ。絶対。……ほら、もっと他にないの? ヤマメがしてもらって嬉しいこととか」
「うーん……未発見の新種の病原体とか」
「だからそーゆうのじゃなくて! もっと女の子らしく! ガールズビーアンビシャス!!」
 がこんがこんと桶を鳴らして詰め寄るキスメの気迫に押され、ヤマメはえーとえーと、と汗を浮かべて考え込む。
「あ、そうだ……甘いもの、とか?」
「そうだよそういうのだってば。……うん。でもいいかも。なんだっけ、地上だと好きな人への告白の代わりに、チョコレートをあげたりするお祭りがあるんだよね?」
「うん。ばれんたいんでーだっけ?」
 まだ時期的には早いらしいが、甘いものをプレゼントに贈るというのは確かにいいかもしれない。手作りであれば話のきっかけには十分だ。
「そっか……チョコレートか。じゃあここは奮発して脚の二、三本も引きちぎってっ♪」
「やめなねそれは」
「リボンとかでまとめたらちょっとお菓子っぽいと思うんだけどどうかな?」
「どうかなじゃないってば」
 引くから。素で引くから。
 確かに蜘蛛ってチョコレートの味がするとかって言いますけどねあれ都市伝説ですからね!! と心の中で蜘蛛がチョコレートの味って言い出した奴に文句を言いつつ、テンション上がりっぱなしのヤマメをなだめるキスメ。
 が、恋は盲目という言葉が示すように、もはやヤマメの暴走は留まるところを知らない。
 釣瓶落としだけに落ち込んでみたりもするが、キスメは今日も元気です。
「あっはは大丈夫だよ8本もあるんだし。ちょっとくらいなくなっても平気平気!!」
「ちょっとじゃないから。3割以上なくなってるからね」
 あーもうめんどくさいなあ、と思いつつも、こんな内容のないガールズトークにキスメが付き合うのは、
「……喜んでくれるかなぁ、あの子」
 なんといっても、そんなふうに本当に楽しそうな横顔を見せる友人のためなのだ。
「人の気も知らないで、いい気なもんだよね」
「ん? 何か言った、キスメ?」
「なんでもないよっ」


 (了)





 たぶん世の大半のキスメはこんな感じじゃないと思いますが、親しい相手には大体こんな路線ではなかろうかと思ってみたりみなかったり。汐月水園さんの『超時空つるべ落としキスメちゃん』の影響が激しく出ています。
 そしてこれと予告読み合わせるだけでおおむね何が起きてるか分かっちゃうというオチ。

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