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付喪夜話・早春賦 2

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「それが今年の4月のことよ」
 神隠し――神が隠しているわけではないのだろうから正確には行方不明事件というべきか。ここ、私立冬森学園に入学したばかりの男子生徒が、既に閉鎖されていた旧校舎の図書室で突如として姿を消した。
 証拠もなく、目撃者もなく、行方をくらました少年(15)の消息は現在も杳として知れない。当時の新聞のスクラップを指でなぞり、私は傍らを歩く友人に訊く。
「その図書室、昔から七不思議みたいなのだあって、何十年も昔に死んだ生徒の幽霊がでるなんて言われてたらしいけど。眉唾……だよねぇ?」
「幽霊のこと?」
 雛はむぅ、と形のよい眉をよじり難しい顔。私とは違ってオカルト肯定派の彼女には、この話題は一概に切って捨てられるものではないらしい。
「それもあるけど、神隠しのほうよ。……だってさ、普通、生徒が学校でいなくなるのをそんな風に呼ばないじゃない? もっと他にほら、えと、……家出とか、失踪事件とかさ、普通に言えばいいのよ」
「そうね、駆け落ちとかかもしれないものね」
「な」
 言うまい、としていたことをあっさりと口にされ、言葉を失う私に、雛はくすくすと笑う。
「前から思ってたけど、メイはひょっとしてそういうのも好きなくちなのね?」
「……ノーコメントで」
 ええいうるさい。私立の男子校で生徒が幽霊との逢瀬とか、胸躍っちゃうシチュエーションじゃないか。これを見て黙って見過ごせというほうが女が廃る(乙女的な意味で)。
 気を取り直す意味で、メモ帳のページを捲り、事前に調べた情報を確認する。
「こほん。……ともかく、学舎で昼日中に生徒一人いなくなってるわけだから世間的にも大事なのは確かよ。どっちかって言うと古い学校だから、閉鎖的なものはあったけどちゃんと警察だって動いたし、かなり綿密に調査もされたみたい。でも結局、それからたいした情報もないまま時間が経って、この少年……西藤菫くんの行方は今もわかってないの。まるで煙みたいにどこかに消えてしまったまま。これじゃ神隠しなんて噂がたつのも解らないではないけどね……って、雛?」
「…………」
 顔を上げると、友人は私のずっと後ろで立ち止まり、訝しげに古びた校舎を見上げていた。
「……雛? どうかしたの?」
「ううん、なんでもないわ。なにか見えた気がしたんだけど」
 気のせいだったみたい、と首を振って、雛はこちらに歩いてくる。
「それで、わたしたちはなにをすればいいの?」
「いつも通り隅々まで調べて、気づいたことを報告しろって。教授から話は回ってるから、勝手に入っていいそうよ」
 渡された合鍵を示し、私はメモ帳を閉じて雛に向き直って肩をすくめる。
「まったく便利に使われちゃってるわよね。私たちってこーゆうのの専門家でもなんでもないのに。ただの学生なのよ?」
「ぼやかないの。前期のあなたのレポートの評価覚えてるわよね? メイ」
「……うぅ。無償で乙女に労働を強いる極悪教授にはいつか天罰がくだるといいわ」
 六道大学、汎元大統一物理学部古閑ゼミ――私こと葦穂五月と、その友人である雛・メーデルマイヤー・東風ヶ瀬が冬森学園を訪れたのは、そんな秋の始めのことだ。



(続く)

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