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【天下無双・零】 アルティメット・ランブル編 26

■RESEARCH SCENE 18/鵺野七希&???


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「あー、……痛。乙女の柔肌が台無しじゃないの」
 張り付けた覚醒パッチの上から頬の傷をなぞり、七希はわずかに眉を潜める。木更津イエローエリアのショーウィンドウを覗き込めば、不機嫌そうな顔をした少女が首と頬と指と拳と胸元と、全身の至るところにパッチを張り付けてこちらを睨んでいる。
 あれから毎夜街をさまよい続けているものの、目立った成果は無い。
「こんだけ探してもあの女もどこにも居やがらないし。……ムカつくわね…っ!!」
 苛立ち紛れに自動販売機の匡体に、強烈な回し蹴りを一撃。
 ずがん、という撃音と共に真上に跳ね上がった販売機がショートし、ガラガラと中身を吐き出す。スカートからすらりと伸びた細い脚でその一本を蹴り上げ、掴んでタブを開ける。
「っく……ぷは」
 500mlの中身を一息に飲み干した七希は、放り上げた空の容器めがけ拳を振るう。
 熱塑性樹脂の容器は一撃で紙のようにプレスされ、彼女が撃ち込んだ拳の跡によって壁に張りついた。
「残り、4人……」
 ちゃり、と彼女が放り上げるのはプラチナプレートの一片。崩壊した校舎から拾い上げたものだ。瓦礫の残骸に埋もれ、河上一諾の死体を探すのは困難だったので、とどめを刺す代わりにこれでよしとするほかは無かった。
 この“究極の闘争”の本義は、天武争覇のような単純な武力を競い合う場ではない。形式上バトルロイヤルの形こそ整えては居たが、本戦出場のために2勝、というボーダーラインが設けられていたことや、多く修練を積んだ武術家を招いていたことからも、天武争覇が基本1対1の戦闘を念頭において開かれた場であることがわかる。主催者の千早牙門自身が一人の男との再戦を願って開催したものなのだから、それも当然といえた。
 だが今回の二人の千早雅之に端を発したこの闘争は、些か状況を殊にする。目的が千早グループの社長の証である5枚のプラチナムカード片を奪い合うものなのだから、必ずしも全員が相手を倒すことを目的にしなくてもよい。
 身を潜め、機会を窺う――あるいは、そうして隠密する相手を見つけ狩り出す技術もまた、この闘争においては重用な戦闘能力のひとつだ。
「あーぁ……なんか飽きてきたなぁ」
 情報戦においては、七希はかなりの弱者の部類に属する。闇雲にストリートを歩き回っているだけで他の参加者が見つかるはずも無いのだった。
 参加者のプロファイルには目を通してみたものの、世間の一般常識などディクショナリに頼れば事足りる現代っ子の七希がそこから新しい情報を掴みだすだけの知識もコネも持っている訳もない。
 が――
 それでもなお、七希が眠ることなく深夜の街を徘徊し続けていることには、それなりの理由があった。
 常人離れした少女の聴覚は、背後の地面を擦るスニーカーの靴底の音を捕らえている。摺り足とも普通の歩法とも違う、独特のステップ。
 1時間ほどまえから張りついて距離を保っていたそれは、周囲から人の気配が消えた瞬間、一直線に少女の元を目指して進んでいた。
「ホント、マジで飽きるトコだったわよ?」
 朝靄の中で、少女は足を止めて振り返る。
 木更タタラ街の一角、半分ばかり廃屋の混じったビル街の中に、申し訳程度に設けられた自然公園。バイオプラントで培養された木々を無理矢理移植し、狭苦しいスペースに強引に緑を植えている。
「鵺野、七希」
 濃い緑のパーカーを着、目深にフードを被った男が、確かに少女の名を呼んだ。
 真っ白い吐息が朝の空気に溶けてゆく。己の内側に溜め込んだ圧倒的な熱量を少しずつ吐き出すように、男はゆっくりと顔を上げる。
「――この前は世話になったな」
 しずかにフードを跳ね上げ、宮坂凱は静かに七希に向き直った。




 ▼

「……なんだ。アンタか」
 静かに闘気を滾らせる宮坂に対し、七希が見せたのは露骨なまでの落胆だった。果たして、バンタム級世界チャンピオンに対してそんな態度を取れる人間がこの世界にどれほどいるというのだろう。
「ここであんたと決着をつけたい」
「冗談。いまさらアンタなんか相手にしてる暇ないっての。こっちは忙しいのよ。妄言なら一人で言ってなさい」
「……これを見ても、それが言えるか?」
 背を向けて歩き出そうとした七希に対し、凱が掲げたのは、うっすらと輝くプラチナムのチケット。
 この、究極の闘争への参加権。
「へぇ……」
 七希は侮蔑に目を細める。
「アンタみたいなのに頼らなきゃいけないなんて、そっちの社長さんて、相当信用ないんじゃないの?」
「いいや」
 はっきりと、宮坂は少女の言葉を切って捨てる。
 そこには、歳下の娘に完膚なきまでに敗北した男の姿は無い。
「俺は、お前を倒すために、メンバーに選ばれた」
「……なにソレ」
 不機嫌に声を沈める七希に対し、宮坂はあくまで冷静を保つ。
「笑えない冗談ね」
「まったくだ。小娘ひとり倒すのに、世界チャンピオンが出張るなんてな」
「……あのさ」
 ぶちり、と唇を噛み千切り。七希は憤怒の形相に顔を歪める。
「それ以上下らない台詞喋り続けると、死ぬ確率増えるだけだって解ってるッ?!」
 言葉と共に閃光が炸裂する。
 宮坂の腹、顎、こめかみをえぐる6連の魔弾――防御不可能の少女の暴力を、しかし宮坂はその寸前で全て回避していた。
「――ッ!?」
「単純な理屈だ。気付かないほうがどうかしてた」
 そればかりか、少女の右顎にはたくましい拳がひたりと添えられている。来る日も来る日も、ただただ愚直にサンドバッグを叩き続け、鍛え上げられた宮坂の拳骨。
 す、と拳を引き戻し、ピーカブースタイルに構えた宮坂は、七希を見据えて言葉を吐く。溜め込み続けた熱量を、一気に吐き出すように。
「舐めるな、ガキ」
 刹那、
 疾風のように宮坂の攻勢が始まった。


 アルティメット・ランブル第六戦。
 鵺野七希 VS 宮坂凱 ――開始。



 →NEXT





 因縁の対決、開始。

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