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【天下無双・零】 アルティメット・ランブル編 25

■RESEARCH SCENE 17/サイクロプス&遊月ひなた


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 彼は、サイクロプスと呼ばれていた。
 本名は不明。性別、年齢不明。国籍、出生、経歴、無し。
 プロファイルにおいてはすべてが「NOT FOUND」を示す、Xランク。
 それは、彼がもともと存在しないところから産まれた生命であるからであった。数年前にN◎VAを騒がせた連続猟奇殺人事件――都合28人の被害者の身体から、それぞれ全身のいずれかが持ち去られるという痛ましい事件の犯人であった一人の研究者が生み出した人造人間。
 28人分の死体を継ぎ剥ぎにされて産まれたのは、自分が誰なのかも解らない歪な生命体だった。
 ヒトのものとは明らかに異なる異形の左腕は、容易くヒトをちぎり殺した。中指と親指と、その間にある二本の指の持ち主はそれぞれ違う。胸も腰も4人分の身体を縫い合わせたものだし、脳では全部で8人が入り混じっている。
 左右に移植された眼球のうち、右眼はひどい老眼で、白内障も発症していたためロクに使えない。残された左眼は、酷使のせいで真っ赤に腫れあがっている。

 自分は、誰か。

 ときにバラバラになりそうな28人の自我が入り乱れた不安定極まりない自分を、辛うじて支えながら――サイクロプスはここにいる。このアルティメット・ランブルに参加し、失われた『自分』を得るために。
「…………」
 暗闇のなかで身を起こす女をじっと見つめ、サイクロプスは口を開く。
 歯と舌と左右で別人のものである唇は、よほど調子がいい時でないと上手く聞き取れる言葉を発せられない。
「出ていけ。……それでないと、殺す」
 案の定、彼の唇が紡いだのは唸り声と大差ない耳障りな音だった。
 それでも女はこちらが反応を見せたことにいくらか驚いたように、刃を止める。
 不意を討たれて驚いたが、あのカタナも、刺さる場所がよほど悪くなければまずサイクロプスにとっては致命傷にはならない。仮にあれが銃でも似たようなものだった。
 彼の創造主が殺戮の果てに選びぬいた28人の死体は、ささいなダメージで動作を損なわないような“逸品”なのだ。

 ちゃり、と胸元で、3枚のプラチナムカード片が重なった。
 一枚は彼自身のもの。あと2枚は彼が自身の領域で対戦者から奪ったものだ。

 サイクロプスには戦う理由がある。他の人間を皆殺しにしてでも欲しいものがある。
 彼はこの暗闇に、相手の陣営の戦士2人を引きずりこんで殺していた。あと3人、3人を始末すれば、サイクロプスは『自分』を得ることができる。
「……逃げないのか」
 ほとんど自嘲のようにサイクロプスは言った。
 自分を見て、人間がする反応はふたつ。化け物と罵って、逃げるか――殺そうと追い立てるか。
 この女は後者だ。そう確信すると、サイクロプスは左腕を持ち上げる。緩慢な動作だが、たとえ最新鋭のパワーアシストアーマーとだって打ち負けない自信があった。
 対する女は、妙な構えを取った。抜き身の白刃を腰の横に構え、もう一方の手で鞘を押さえる。まるで――納刀しない居合い。
 その構えのまま、女はためらうことなくサイクロプスを見た。
「ただちに抵抗を止め、武装解除して投降しなさい。さもなくばこちらの指示に従う意志無しと判断し、武力制圧を試みます」
 まっすぐに――
 まるで、彼が、サイクロプスが、
 人間ででもあるかのように。
「――器物損壊、障害、殺人未遂、公務執行妨害――その他諸々併せて、推定罪刑懲役138年」
 この災厄のニューロエイジ。秒単位で法が改正され犯罪が定義されるこの時代。刑法は恐ろしいほどに複雑化し、ありとあらゆる存在に対して刑罰が定め直されている。オメガシステムが失われた今、それを正しく把握しているのはごく一部だ。しかし彼女はその全てを暗記しているかのようによどみなく喋る。
「ランクの無い貴方には弁護士を呼ぶ権利も、黙秘権も、裁判を受ける権利も残念ながらありません。ですが――高等特務警察ブラックハウンド二等巡査、遊月ひなたの権限において貴方を確保します」
 駆除。排除。ぶっ殺す。
 そんな単語は、一切使わずに。
「投降の意志無しと判断。鷲宮双天流、遊月ひなた。――参る」
 遊月ひなたは、厳かにサイクロプスとの対峙を宣言し、
 その罪を償え、と。そう言ったのだ。
 彼女は決意していたのだ。この地下区画のなかに助けを求める者が居るのであれば、一人でも多く連れ帰るのだと。





 ▼

 交戦は5分と続かなかった。
 地面に伏したひなたは力無く地面を掻き、もがく。撃ち込まれた巨大な拳を避けきれず、壁に激突。衝撃で内臓がひっくり返り、まともに息もできないまま嘔吐する。
 動けないひなたを、真上から真っ赤な単眼が覗き込んでいる。
 しかし、不思議とそこには殺意は無く――
 なぜか、その瞳は濡れているように、ひなたには思えた。
 ボロボロに擦りきれたコートと、四方八方に伸び放題の髪の隙間から、唸り声のような台詞が聞こえた。

 死なないように殴った。でも、うまく手加減できなかった。
 あんたはそんなことができないくらい強かった。
 しばらくそこで大人しくしていて欲しい。


 なぜか、ほとんど聞き取れないはずなの彼の言葉は、そう聞こえた。
 コートの背中が小さく震える。どうも、わずかに頭を下げたようだった。擦りきれたコートの裾を引きずって、彼が背を向ける。
「・・…っ、待ちな、さい……っ!!」
 もがくひなただが、立ちあがることはおろか這いずることも出来なかった。
 放り出していた死体を担ぎ上げ、暗闇の中、コードや配管を掻き分けた彼は通路を飛びあがり、排気のための細い通路に這いずりこむ。
 最後にひとこと。
「……ありがとう」
 そう、言葉を残して。
 その感謝が何に対して捧げられたものなのかも気付けないままに、ひなたの意識は闇に飲まれた。


 アルティメット・ランブル番外戦

 ×遊月ひなた VS サイクロプス○
 遊月ひなた――気絶



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