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【東方】袖振り合うも化生の縁・7

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 命蓮寺の朝は早い。
 ……というか、本当に洒落にならないくらい半端なく早い。
 まだ空が白み始めるよりずっと前から起き出して、着替え、身繕い、掃除洗濯朝餉の用意。目の回るような忙しさだ。
 おまけに質素で厳格で、呆れるくらい禁欲的だ。
 あの、ぬえという妖怪を除けば、他の者達が取り立てて橙を苛めるようなことはなかったのは幸いだが、一汁一菜にも届かないような質素な食事(おまけに肉も魚も入っていない)、隙間風の入り込む簡素な僧坊、堅い煎餅布団での寝起きを、さも当たり前というように付き合わされるのはそれだけで辛い。
 何よりも、寒いのがいただけない。普段、マヨヒガの縄張りでぬくぬくと布団にくるまっている化け猫なのだ。質素で厳格な妖怪寺の生活はあまりにも馴染まなかった。
「…………ぅうぅ……」
 そんな訳で、新天地での生活二日目にして早くも音を上げた橙は、掃除の時間をサボって木陰で潰れているのだった。
 こんな生活、まともに付き合っていたら本当にどうにかなってしまいそうで――文句のひとつも言わずに楽々とそれらをこなしている他の妖怪達のことが信じられない。この妖怪寺は思った以上の魔窟であるようだった。
(はあ……)
 逃げ出してしまおうかと思いつつも、いまだ耳の奥に強く残る、藍の叱責が橙を躊躇わせる。
 短いながらも、ここでの暮らしで分かったことがいくつか。
 まず、命蓮寺の化主である聖白蓮は、しばらく寺を留守にしているということ。行き先のやりとりで霊廟がどうこうと聞こえはしたが、詳しい理由までは分からなかった。
 その間、寺を代行として治めているのが、寅丸星という妖怪。橙の大先輩である(ネコ科という意味で)本物の虎妖であるらしいのだが、信じられないことに、とても肉を喰らう獣とは思えないくらいに仏門に馴染み、本物の仏のように立派な立ち居振る舞いをしていた。なんでもその清徳さを見込まれて毘沙門天の代行すら務めるくらいだというから、これまた信じられない。
 そして他の妖怪達――舟幽霊の村沙水蜜、入道使いの雲居一輪、毘沙門天の使いとして逗留しているナズーリン、最近入門したばかりというヤマビコの幽谷響子。程度の差異はあるものの、いずれも皆、白蓮の教えに従い、仏門に帰依している妖怪達だった。
「……って、こんなことしてる場合じゃないんだって!」
 命蓮寺が無視できない勢力であることは十分すぎるくらいに把握できるほど、橙は命蓮寺の修行体験コースに没頭させられる羽目になっていたが――そもそも本末転倒だ。
 ここに潜りこんだ最初の目的、化け狸の居場所を探すことを思い出した橙は、箒を放り投げてて持ち場を離れようとした。
 その時。
「どこへ行くんだい?」
 橙は、いきなりの背中からの声にびくりと硬直する。
 瞼を半分引き下ろした視線で――ナズーリンは、すたすたと橙に近付き、その足元の箒を拾い上げた。
「やはり、警戒していて正解だったね。どうにも怪しいと思っていたんだ」


 (続く)


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