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【東方掌編】春に桜

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 四月。白玉楼の邸内は一面の桜に覆われる。
 冥界の気候が顕界のそれと同じということはないのだが、長い長い階段の上に隔てられた冥界では、麓や人里の春に比べると通年、一巡から二巡ばかり遅い春だ。
 二百由旬とも言われる庭を埋める桜は風がなくとも揺れ、罪の彩りのない白い花を散らす。
 白玉楼において、根の下に罪が埋まっている桜はただ一つだけだ。
「…………」
 はらはらと散る桜は、庭に、砂利の上に、ゆるやかに流れる川面にと散って、白く彩る。
 並木が囲う池の上にも、一面の白が広がっていた。冥界の桜は死後の桜。ゆえに朽ちることはなく、ただ穏やかに散っては、雪よりも淡く消えてゆく。
 掃いても掃いても降り積もる桜の中、いつしか箒の手を止めて、妖夢は一面の春の中に佇んでいた。
「こら、妖夢」
「――ふぁ?」
 不意に声を掛けられ、振り向こうとした妖夢の鼻先を、白い桜の花片がかすめる。
 思わずくしゅん、と飛び出したくしゃみの向こうで、幽々子は袖で口元を押さえ、ころころと笑っていた。
 失態に顔を赤くしながらも、妖夢は慌てて主の隣で姿勢を正す。
「今年もまたよく咲いたものね」
「はい」
 青い空を背景に満開の桜を見上げて幽々子が眼を細める中、妖夢は静かに頷いてみせた。
 初夏の新緑、夏の梢、秋の紅葉、冬の細枝。広大な庭が見せる四季折々の彩りは、、庭師にとっての自分が日々の仕事の成果を実感できる機会でもある。今年もこうして無事春を迎えられたことは、妖夢にとってもささやかな誇りであった。
「……妖夢も大きくなったものねえ。最近じゃなんだかお洒落になっちゃって。嬉しいわ」
「ゆ、幽々子様っ」
 とつぜん頭を撫でられ、思わず声が裏返る。
 くすぐったいような、恥ずかしいような。ひやりとした幽々子の指先が額に触れると、胸の奥が訳もなく熱くなった。
「――また来年も、こうしてお花見ができるといいわね」
 そして不意に、妖夢は気付く。
 ついつい、普段の物言いや外見のせいで、誤解してしまうけれど。自分の主は、妖夢が生まれるよりもずっとずっと昔から――それこそ祖父がまだ若かった頃から、ずうっと、この白玉楼にあって、巡る季節を、訪れる春を見続けてきたのだと。

 庭の奥に、ひっそりと聳える、あの一本の、咲かない古桜と共に。

 果てることなく舞い散る桜の花片が降り積もる、池の水鏡の上。
 太い幹に寄り添うようにして目を閉じる幽々子は、いまにも儚げに、消えてしまいそうに思えて。妖夢は叫んでいた。
「幽々子様っ」
「……なあに? 怖い顔して」

 ずっと、おそばに居ます。

 言いたいはずのその一言が、どうしても口に出せぬまま。ただただ、想いだけが溢れ落ちてゆく。頬を溢れる雫のまま、妖夢はしっかりと主を見て、じっと――腰の二振りの刀を握り締めていた。
 幽々子はただ、穏やかに微笑んで。
 けなげな従者の頭を、もう一度そっと、撫でた。


 (了)




 あまりに桜が綺麗だったので。

 ところで先日、地元を歩いていたらやけに派手なワゴンが通り過ぎて行って、『おや、どこの花屋さんだろうか』とよく見れば、桜の下に佇む紫と幽々子様の痛車だったということに気付いて割と驚きました。
 あれがたまたま通りがかったどこかの車なのか、地元に住んでる人の車なのか激しく気になります。



 

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