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C81

#1/2追記

 遅くなってしまいましたが、参加された皆様お疲れさまでした。
 おかげさまで新刊・既刊共に完売の運びとなりました。ありがとうございます。
 お隣でお世話になりました「とね屋」様「ハスミ書房」様、ご挨拶頂いた久樹さん、新刊ありがとうございました。




 今年も残り短くなって参りました。C81、サークル参加します。
 12月30日(金、2日目) 「東エ-35a 折葉坂三番地」にてお待ちしています。

◆新刊:「フランケンシュタイン・ネクロニカ」  A5折本、28ページ 100円
C81表紙

 深夜のアリス宅を訪れた傷だらけの宮古芳香。自分を直してくれとせがむ芳香に、アリスは渋々その頼みを引き受ける。しかしそれと時を前後して人里では次々に若い娘が殺されるという事件が起こりはじめていた。宴会でその話を聞いたアリスは、ひとり夜の森へと向かう。
 普段に比べると割合とダークな展開です。弾幕ごっこよりはもう少し直接的な、痛々しい戦闘もあります。全体的に血や骨や傷や死体などが多めのお話ですので、苦手な方はご注意ください。

 今回、表紙には「四季悠々」さんのアリス立ち絵素材をお借りいたしました。


 紅楼夢の新刊「星屑カヴンの箒乗り」と、C80のさとこいちゅっちゅ本「コメイジコミュニケイション」も少数ですが持っていく予定です。


 ↓以下、サンプルとなります。
 ▼

「おーい、誰かいるかぁー!?」
 ドアを叩き割らんばかりの轟音が我が家を襲ったのは、丑三つも過ぎた真夜中の事だった。
 ノックと呼ぶには憚られるほどの馬鹿力で蝶番をへし折らんばかりにドアが撓み、ひしゃげて揺れる。私は揺れるガス燈の灯りを大きくし、顔をしかめて作業台の図面を閉じた。
「いーなーいーのーかー!? いないなら返事をしろぉー!!」
 幻聴の類では無いようだった。
 時刻を抜きにしても来客の予定はない。こちらの予定も考えずに突然やってくる来訪者には一人心当たりがあるが、当の彼女は数時間前に箒ごと外に叩き出したところだ。
 そもそも私が瘴気立ちこめる魔法の森に居を構えているのも、不要な交流を避けるためだ。私の魔法は私の願いを叶えるためにだけあるのであって、どこかの野良のように揉め事解決やら作成依頼を受けるような看板を掲げた覚えはない。
 何よりも、鼻先を掠める濃い死の匂い。……控えめに言って、友好的な相手とは思えない。
「いないのかー!? 勝手に入るぞー!?」
 ドアノブがぎちぎちと軋み、分厚い樫の扉が悲鳴を上げ始める。紅魔館の図書館ほどではないにしろ、この家は魔法使いの工房として十分な強度を持たせてある筈なのだが、ドア向こうの相手はそれを力づくでこじ開けようとしているようだった。
 世にいう魔女狩りの時代はこんなものだったのだろうかと考えながら、人形達に魔力糸を接続。符名の宣言は省略し、糸を通じて人形達に命令を下す。
 ばきん。蝶番がはじけ飛ぶのと同時、クローゼットの扉を跳ね飛ばして展開した人形達が、一斉に手にした長槍をドアへと突き立てた。
 無数の穴を穿たれて、木端微塵に壊れたドアの向こうにあったのは、串刺しにされた不埒者の姿――ではなく。
「おぉーー!?」
 ぴんと伸ばした前肢を振り回すようにして叫ぶ、ひとりの少女。
 身につけているのは、紺と赤の忌装束。ぞろりと生え揃った牙の間から冷素(クリュオストン)を吐き散らして、澱んだ眼がぎろりとこちらを睨む。その身に纏う濃い死臭で、土気色の肌と額に貼られた大きな符を見るまでもなく、彼女が死体なのだと分かった。
「おぉー!! お前がぁー、森の人形遣いって奴だなー!?」
「……貴方は?」
「我こそは、偉大なる大祀廟を守るために生み出された不死の戦士(キョンシー)だ!」
 ……宮古芳香。
 身体の前に突き出した両手を誇らしげに振り上げ、少女はそう名乗る。
「お前は腕のいい修繕屋だと聞いたぞ! だからいますぐ私を直してくれ!!」
「……はあ」
 割と予想外の発言に、私は胡乱な表情を浮かべずにはいられなかった。






 ――三魂(コン)天に帰りて、七魄(ハク)地に帰らざれば、以って鬼(キ)となり僵尸(キョウシ)と成る。
 仙術によって作られ使役される動く死体を僵尸(キョンシー)と呼ぶ。死体の運搬の面倒を省くために歩かせたのが始まりともされ、特徴としては『僵(こわばる)』の字義どおり、死後硬直で曲がらない関節が挙げられる。西欧での吸血鬼としての性格も持ち、殺した相手を同族にしてしまうこともあるという。
 霊視を試みれば、彼女の霊息(オーラ)は確かに黄色。死に損ない(アンデッド)であることは間違いないようだった。しかし生憎と私の知り合いに生粋の死霊術師(ネクロマンサー)はいない。
 こちらを害する意図がある可能性は捨てきれず、訝しむ私を余所に、彼女――芳香はずだん、と飛び上がり、訴える。
「頼むー。このままではご主人様のお役に立てないんだー!!」
 見れば確かに、彼女の体のあちこちには損傷があった。片方の腕は明らかに腱が切れているし、右の腿などは太い枝が突き刺さったまま皮膚が大きく裂け、傷痕が腐敗して骨まで露出している。腹にも大きな傷があり、そこからはどす黒い腸がはみ出しかけていた。かなりの長い期間、補修を受けないまま放置されているらしい。
 警戒は緩めないままに観察していると、ばたばたと飛び跳ねていた彼女がいきなりがくんと膝から崩れ落ちる。
「お?」
 横倒しになった頭がテーブルの角を強打。べきりと嫌な音を響かせて首が180度ねじれ、頭蓋が地面を跳ねる。
「うわあーー! また折れたぞぉー!?」
 へし折れた左足と首を見下ろして、彼女はきょとんと瞬きを繰り返してから、まるで他人事のように叫ぶ。
 膝が反対側に曲がって、靭帯と骨の一部が露出していた。痛覚がないのは分かるが、正直、あまり注視したいものでもない。
 折れた脚にも構わずに尚も立ち上がろうとしてまた転び、じたばたともがく。転がりまわる元気な死体がぶつかるたびにテーブルが揺れ、棚の中身が床に散らばる。
 私はたまらず叫んでいた。
「……ああもう、暴れるのやめなさい! 直るものも直らなくなるわ!!」
 次第に頭痛の強まりだした額を押さえて吐息する。これ以上工房を荒らされてはたまらなかった
「解ったわ、直してあげるから、おとなしくして!!」
「本当かー!?」
 問い返す彼女だが、懐疑を抱いているというよりは確認をしているような語調だった。相手を疑うという機能まで排除してシンプルに出来ているらしい。
 大きく裂けた胴体から、生命維持に必要な臓物をずるずるとこぼし、肩と膝を使ってずるずると地面を這い進もうとする彼女を、人形で抱き上げる。
「お?」
「直りたいなら無茶はやめなさい」
 諦めと共に言い聞かせながら、床に散らばった臓物も回収させ、まとめて腹の中に押し込む。作業をこなした人形達がたちまち腐汁に塗れ、見るも無残に汚れていく。
 後の面倒に頭を悩ませる私の内心を知ってか知らずか、彼女はけらけらと笑い声を上げた。
「おー。お前はいいやつだな!! この前あった奴らはいきなり撃って来たのに!!」
「……客として来るのなら歓迎するわよ」
 皮肉のつもりだが、通じてはいないだろう。
 礼儀のなっていない相手には相応の対応をしているだけだが、どうにも魔理沙あたりはそれが不満であるらしい。心外だ。
 修復とは言え、人形作成用の工房に医者の真似事ができるような設備はない。とりあえず地下の作業室に彼女を運び、一番大きな作業台に除染用のシートを引いて横たえる。
 袖付きの作業エプロンに着替え、呪詛感染を含むための防護の魔法を施した手袋とゴーグルを嵌める。並大抵の毒や病気などで弱る身体ではないつもりだが、死者をキョンシーとして動かすほどの呪詛に素手で触れる気にはなれなかった。
 折れた脚と散らばった内臓を並べ、私は彼女の顔を覗き込む。
「ねえ。できれば修復中は動作を止めて欲しいんだけど……」「?」
 首を傾げる彼女。ご丁寧なことに額の符にも【?】の一文字が浮かび上がる。言うだけ無駄かと諦め、マスクをしながら言い聞かせた。
「もう一度繰り返すけど、あまり動かないで。あなたの身体の勝手が分からないんだから、ちゃんと直して欲しかったら私の指示に従いなさい。いい?」
「おー。わかったぞー」
 額の札が制御系になっている可能性は十分に考えられたが、術式への干渉を考えて手を出すのは自制する。となると、多少強引で原始的な方法に頼らざるを得ない。私と同じように作業着を着せた人形たちを一ダース配置して、修復を開始する。
 まずは彼女の首にノコギリを押し当て、折れた首関節の接続を切り落とした。頸椎を外し、古い縫い痕のある皮膚を切除。神経を切り、首を脊髄ごと引き抜いて隣の架台へ移す。
「おぉー……」
 黒く汚れた血を垂らしながら、ずるりと伸びる自分の背骨を見下ろしてキョンシーは感嘆の声をあげる。生身であればたとえ痛覚がなくとも精神への影響は免れず、最悪発狂してもおかしくない筈だが、彼女は全く堪えた様子もない。死体にまともな精神など期待しても仕方のないことではあるが。
「そうだ! ついでに腕も曲がるよーになるとなおいいな!!」
 彼女がキョンシーであるなら、関節の固定は死後硬直によるものだろう。しかし彼女の死はおそらく昨日今日のものではなく、数十年……ことによると数百年単位で過去のものかと思われた。それだけの年月を過ごしたのであれば、とっくに四肢の硬直は解けているはずなのだが……
 何らかの方法で腐敗の進行自体を停止させている可能性があると考え、まずはその保存式の解析から始める。
「ちゃんと柔軟体操もしてるんだぞー!?」
「はいはい、分かったからじっとして」
 子供をあやす気分でがたがたと作業台を揺らす彼女をなだめ、損傷部分を覆う皮膚と肉を切開。固定の後に動作と欠損部を確認してゆく。彼女が死体でなければどんな名医でも手に負えない大手術だったろうが、幸いにして彼女が動いている理由は生命があるからではない。雑菌の感染や組織露出に伴う変質を気にしなくて良いのはありがたかった。
 予想通り、彼女を動かしている術式そのものは実に単純だった。半時間もかからずに大まかの構造を把握することができた私は、把握針と糸を縫製用の籠手(ガントレット)ミシンに繋いで、直接折れ千切れた手足と内臓を縫い合わせてゆく。
 その過程で、彼女の素材になった死体は一人分ではないことも判明した。基になった死体こそあるものの、複数の『素材』を集めて繋ぎ合わせた死体の合成品とも言え、敢えて分類するならば死に損ない(アンデッド)ではなく屍人形(アンフレッシュゴーレム)と言うべきなのかもしれない。
 その観点から見れば、彼女は実によく仕上がっていた。陰気の溜まる場所では、普通の死体がキョンシーになることも無いわけではないが、彼女のような精巧な屍体人形が、自然に生まれることはあり得ない。
「ねえ。貴女ってどこに住んでるのかしら?」
「うむ、墓場だ!! そこで大切なものを守っているのだ!!」
 墓場に死体があることそのものは(動いている点が多大にイレギュラーだが)別段おかしくもあるまい。問題は、それを支持した相手の存在だ。
「貴方はそこにいろ、と命令されたのよね?」
「そうだぞぉー! 我等はたとえ最後の一兵となろうとも、あの大祀廟を死守しなければならないのだー!!」
「もう死んでいると思うけど。……誰から?」
「む。それは話せないぞー!! なぜなら秘密だと言われているからだ!!」
「……そう」
 彼女の主人と言うのが誰だかは知らないが、死体を材料に人形を作るというのはけして間違った方法ではない。そも、人の形を模したものが人形であるならば、人間そのものを材料にするのが一番相応しいことになる。
「……参ったわね」
 思わず苦笑が漏れる。彼女には自我も意志もあるが、魂がない。動き考え喋るだけの、ヒトガタだ。
 生前の自我は喪われ、自分が死体であることは理解しており、その上でなお現在のキョンシーとしての自我を確立している。主人の上位命令権こそ残されているのだろうが、私を訪ねて修理を要求するほどの自由意志を持つ。
 つまり、彼女は私の理想とする完全自律人形にきわめて近い存在なのだ。
「おぉー? なんだお前らー?」
 それを証明するように、ぶらぶらと架台の上で身を揺する彼女が、器具を運んできた人形達に話しかける。どういうわけか、彼女は人形のいくつかと意思疎通を可能にしているかのように振る舞っていた。
「私の人形達よ。貴方を直すのを手伝ってもらうの」
「ほぉー? 偉いなー?」
 興味深げに人形達を覗きこみ、彼女は作業台の上の身体を動かして、器用に人形の頭を撫でる。どんな術式なのか、物理的な接続を断っても、彼女の脳と身体は繋がっているようだった。
(…………)
 一瞬、このまま彼女を解体して、その仕組みを徹底的に解析したいという好奇心が頭をかすめる。それは魔法使いとしては実に正しい行いと思えたが――
「そうかー、お前もご主人様のために働けてうれしいのかー」
 人形たちから何かを聞き取ったのか、脊髄を尻尾のように振り、生首だけで笑う彼女。……いや、もう『生』首ではないか。
 人形たちと話している(?)彼女を前に小さく首を振り、私は胸中に沸き起こる暗い疑念を押し込めた。
 修復は予想以上の大作業となった。補修作業自体はさほど複雑なものではないが、もともと屍として意味を持っている彼女の身体に、セルロイドやワイヤーと言った人工物を用いた場合、彼女を維持している術そのものにも影響を与えかねない。必然、修復に使える材料は限られ、そのために私はストックしていた生体材料――腱や骨、筋肉など――の多くを放出しなければならなかった。
 骨を継いで腱を張り替え、肉を詰めて皮膚を当て縫い、神経を縒り合せて紡ぎ――精密作業用の人形五体を総動員して、約四時間。そろそろ空が白み始める時刻となって、ようやく彼女の補修は終了した。
「はい、おしまい」
「おおー、動くぞー」
 十全な状態の彼女がどんなものかは知る由もないが、人形遣いの矜持にかけて、ほぼ完璧な修復だったと自負して良いだろう。すっかり自慢のお肌を取り戻した動く死体は、上機嫌に腕を振り、軽くなった身体を堪能している。
「ボランティアもほどほどにして欲しいわ。次からは修繕費用を請求するわよ」
「そうかー」
 わかっているのかそうでないのか、頷くキョンシー。人形にして十数体分の素材を惜しみなくつぎ込んでのタダ働きとは。あまりに割に合わない取引だった。
 またぞろこれら『材料』の供給を紫に申し出なければならないことを考えると、気が滅入る。
「これでまたご主人様の役に立てるなぁ!! 感謝するぞ!」
 再び彼女の口から出たご主人様、という言葉に、私は少なからぬ興味を覚えていた。これほどの人形を作る技術に巡り合ったことは数えるほどしかなく、彼女の主に会える機会があるのならば看過できない。
 件の大霊廟にまつわる一連の騒動は、魔理沙の自慢話で耳にしている。この国の古代の為政者が蘇り、物好きにも博麗神社の地下に洞府を開いたなどと言う話だったか。
 恐らく、彼女の主とやらもその関係者であろうことは推察できた。
 そして彼女が、その主からも用済みとされていることも。
 彼女の主が本拠地を移したのならば、いまさら墓地を守る理由もない。にも関わらず彼女に与えられた命令は、変更されていないのだ。僵尸(キョンシー)と呼べないほどにまで腐り崩れてしまった身体も、それを窺わせていた。
 複雑な気分で見ている私の前で、彼女はすっかり血色(?)を取り戻した青白い肌を誇るように腕を突き出し、額の札をはためかせて、口元に牙を覗かせる。
「色々世話になったなー、アリス!」
「……あまり無茶はしないようにね。いつでも直せるわけじゃないんだから」
「おぉー、承知したぞー」
 無駄かもしれないが、一応釘をさしておく。修復に力を尽くした以上、できれば長く無事でいて欲しいというのは本音でもあった。
「じゃあなー」
 夜が明ける前に戻らねばならないという彼女を玄関で見送る。森の奥へと消えてゆく屍人形の背中と、凄惨なまでに汚れ、死臭の染み付いた工房と人形たちを見回して――大きく吐息。
 私はシャワーを浴びてから、眠気覚ましの紅茶を用意することにした。




 ▼

「そういやアリス、知ってるか? 里で大勢人死にが出てるそうなんだが」
 そんな騒ぎから、十日ほどが過ぎた日の事だった。
 いつものように人妖が集った博麗神社の一室。炬燵の上には湯気を立てて煮立つ土鍋が揺れ、燗酒と杯が並ぶ。
 先日借りた資料を返しに顔を出した図書館で魔理沙に捕まって、神社まで連れられ――気付けば時刻は夕方を過ぎ、なし崩し的に宴会が始まっていた。
 神社に妖怪が屯(たむろ)することに常々不満を持っている霊夢も、食物と酒が出てくるとあればそう悪い顔はしない。何かと物入りな歳末の時期に紅魔館の主従がともども、食糧持参でやってきたのだから、これは彼女(レミリア)の作戦勝ちというところだろうか。
 そうして設えられた鍋も佳境に入り、腹を膨らませた参加者一同が、酒精に酔いを回らせている中、魔理沙が話を切り出したのだった。
 ここ数日、人里で人死にが続いていると。
「――なんでもな、腕が見つかってないらしい」
「食事時にする話じゃないわね」
 犠牲者は皆、見るも無残に全身を引き千切られた姿で見つかり、その惨たらしさは直視できないほどだと言う。
 殊更に恐ろしげな顔と声音で囁くように言う魔理沙に、霊夢は呆れて箸先を口へと運ぶ。折角披露した怪談がウケないのが不満なのか、白黒の魔法使いはふんと鼻を鳴らした。
「一昨日で四人。ああ、今朝もう一人襲われたって話だから五人か。若い娘ばかり狙うってんで、嫁入り前の娘を抱えた家は大騒ぎって聞いたぜ」
 酒精に濁った後ろ暗い笑みで、いやあ我ながら親孝行もんだぜ、と魔理沙は嘯く。おそらく冗句(ジョーク)のつもりなのだろう。彼女が人里にある実家と疎遠であるという話は折々で耳にすることだが、時折、愚痴に混ぜて吹聴される言葉の端々から、さして深い事情があるわけでないというのはなんとなく想像ができた。
 本当に話したくない出来事というものは、言葉にするのも忌々しいものなのだが。
「まあ、掻い摘んで言えばだ」
 鍋の底に残った白菜と白滝をすくい上げて自分の器に移し、遠慮なく咀嚼しながら、魔理沙は箸先を鯵の干物が乗った皿へと向ける。綺麗に身のすくわれた鯵の干物の、骨と皮だけになった身体を器用に半分にちぎり、
「喰われちまってるらしい。……ああ、別にいやらしい意味じゃないぜ?」
 犠牲者が若い娘で、夜の出来事となればそんな連想もあるだろう。だがこれまでの話を聞いている限りでそんな詰まらないオチでないことは明白な会話の流れの中で、敢えてそんな表現をするあたり、魔理沙も相当酔っているのだろう。
 少しだけ身の付いた干物の皮をばりばりと齧り、温くなった手元の杯を開ける。
「物盗りだ辻斬りだって話じゃないらしいんだ。つまり、態々殺そうとしたんじゃなく、ついでに殺しちまったんでもなく、結果的に犠牲者が死んじまったってな。こいつは、単に襲ったやつを喰おうとしただけらしい」
「普通、食べられて生きてる奴はあんまりいないと思うけど」
「そうでもないぜ。世間は広いからな」
 なぜだか訳知り顔の魔理沙の向かいで、レミリアが至極尤(もっと)もだとばかりに頷いていた。どうでも良いが、片手の赤ワインが鍋に合わないこと甚だしい。
「まあなんだ。仮に私達がこの白菜だとするだろ」
「せめて動物にならないの?」
「それはもう少しここに動物性蛋白を並べてから言うといいと思うぜ? とにかくだ。私やお前が白菜だとする。こいつらは今朝まで畑に植わって、充実した人生を送ってたわけだが、そこをいきなりざっくりばっさり、鎌に根こそぎ刈り取られて、全身縮みあがるようなような冷たい水ぶっかけられたかと思ったら、気付いたら重ねて四つ八つに切り分けられて、しまいにゃ釜茹でだ。だが、私らは別に、白菜を殺そうなんてしてない。単に美味そうだったから料理して、喰っただけだ」
「料理したのは殆ど私だけどね」
 口を挟むと、魔理沙は流石に不快そうに眉をしかめる。何度も腰を折られて機嫌を損ねたのだろう。子供っぽい拗ねかただと思いはしたが、実際、魔理沙が音頭を取らなければこの鍋ができ上がっていなかったのも確かではある。
「今回の事件もそうらしいんだな。どうも襲った奴は、襲われた奴が喰われたら死んじまうってことも考え付かないくらいの手合いらしい。ただ腹が減ったから、齧りついただけなんだ」
「その結果、相手が死ぬことにも気付かないまま?」
 随分と、乱暴な話だった。
 しかし確かに犠牲者の有様を聞く限りでは、魔理沙の話は頷けるところが多い。事件現場の凄惨な光景と言い、事切れた娘の傷口――魔理沙の言葉を借りれば、齧り痕か――は、少々常軌を逸していた。狩りの経験のない若い獣でも、もう少しまともに仕留めるだろう。
 躾のなっていない悪餓鬼が、腹を空かせて上等なケーキを貪るように、犠牲者の身体は手当たり次第に咬み千切られていた。
「そんなので良く解ったわね」
「なにがだ?」
「手よ、手」
 ぷらぷらと右手を振って見せる霊夢に、魔理沙はああと手を打った。もともとこの話を始めたのは彼女の筈なのだが、それも忘れていたらしい。大分酒精を回らせた様子で、これは明日は昼過ぎまで二日酔いで呻いているだろう。
 そう。手。手が見つかっていないというのが、そもそもの主題だった筈だ。
「そこで今日の犠牲者の話になるんだがな」
 重々しく話し始める魔理沙だが、内容にはさしたる違いはなかった。夜遅く、出歩いていた娘が正体不明の何かに襲われ、凄まじい力で押さえつけられて右手を齧られた、ということになる。幸か不幸か、連日の猟奇事件に里の警備が厳重さを増していた事もあり、彼女は三途の河へ渡るほどにまでは齧り続けられなかったということになる。
 それでも――どうにか人の形は保っていたとはいえ、その重症で命を繋ぎ止めたのが奇跡と見るべきだろう。たまたま朝早くから現場に永遠亭の薬師見習いがいたというのは、まさしく天の巡り合わせだった。人里へ薬売りに来る二匹の兎のうちの片方は、四十枚葉のクローバーを見つけるくらいには人間を幸運にする程度の能力を持っていると常々喧伝している。
「ってわけだぜ」
「ふうむ」
 珍しく考え込む霊夢。
 四人の死者――いや、今朝の犠牲者も勘定に入れれば五人。立て続けに喰われた彼女達は、等しく右腕を失っている。そこにどれだけの意味を見出すかという見立てだった。五人の被害者の連続性は、細い糸の可能性を見出すにも、ただの偶然と片付けるにも微妙な数で、それ故に明瞭な判断には物足りない。
 たまたま、妖怪が食べ散らかした残りに右腕が含まれていなかったという可能性も十分に考えられた。
「ねえ、魔理沙」
 ふと、霊夢が顔を上げる。自分の振った話だというのにすっかり忘れ、囲炉裏の傍でにとりの持ちこんだ機械を覗き込んでいた魔理沙は急に名を呼ばれ、呆けたように振り向いた。
「その襲われた子って、なんでそんな時間に外にいたの?」
「なんでって――」
 そんなの決まってるだろ、と言わんばかりに唇の端を歪める魔理沙。何がどう決まっているのかは全く分からないが、この酔っぱらいの中では、とっくにそこについては話した積りになっているようだった。
「客だよ、客」
「?」
 疑念を浮かべる霊夢の横で、レミリアが何故だか満足そうに口元から牙を覗かせて笑う。巫女の隣に寄り添った彼女は、傍らのメイド長に視線で促した。いつでも完璧な彼女は、デザートの蜜柑を剥く手を止めてさらりと口にする。
「商売の最中だったのでしょう?」
「……ああ」
 霊夢が眉をしかめ、嫌そうに呻く。博麗の巫女の見せる潔癖な一面に、私は少々驚いていた。あまりそんなものに頓着する性格とも思えなかったのだが。……否、穢れを払う巫女であるならば当然の事なのだろうか。
 人里には古くから遊郭があったが、最近では歓楽街の一角としてそれなりの賑わいをみせているという。一昔前までは、里でも夜這いやお手付きなど良く見られたようなのだが、里の教育者ともいうべき半人半獣の教師が数十年にわたって根気よく道徳と性風俗の乱れを説いて回った結果、より健全な娯楽として確立され、隔離され、現在のような歓楽街が出来上がっていったらしい。
 今回犠牲者となった若い娘達は、こうした廓にも属していない、夜辻で客を引くような、上等とは言い難い部類の者たちだったのだと言う。
「……だから、あんまり騒がれてないんだな」
 むしろそれを歓迎している者の方が多いのかもしれない。犠牲者の多くが表沙汰にし辛い身の上であるということを含めて、広く公にされるよりも、後ろ暗い興味と共に、尾ひれを付けた噂として持て囃される類のものだ。
 それゆえ、人里と交流の遠い博麗神社には、少しばかり伝わるのが遅れたのだろう。
「思わぬ切り裂き魔の出没ってことね」
「うちのメイドはそんな偏った食材を出すような不出来な真似はしないよ」
 レミリアが自慢げに言う。これで従者の質を褒めているのならば彼女にもいっぱしの大妖怪としてのカリスマが備わっているのだろうが、実際は単にそんな従者を持っている自分を誇っているだけなのだから、隣に腰を下ろす咲夜の苦労たるや相当のものであろう。
 いずれにせよ、吸血鬼の館に運び込まれる食料は、多く丁寧に選別された上等なもので、食卓に並ぶ時も贅を尽くして調理されている。見境なしに齧りついた死体の、余りの腕だけを持ち去って主の前に転がして尻尾を振るような駄犬では、それこそ縊り殺されるほどに不興を買うことは考えてみるまでもない。
 ちらりとうかがった視線の先で、咲夜は顔色一つ変えずに鍋の〆となる雑炊の用意を始めていた。



 …………………。
 ………。

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