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【東方短節】人形遣いの意図

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 魔法というものは、けしてあなたの手の届かないところにある。

 それを教えてくれた人は、私にとって母とも呼べる人だった。いや、実際に私が物心ついた時にはその人のことを母だと思っていたし、ずっと後になって本当の事を教えられてもなお、私は私の短くはない人生において他に母と呼べる人を知らない。たとえどんな事情があったにせよ、生まれたばかりでまだ満足に目も開いていないような赤子を、荒廃した赤い大地と命を削り取る砂塵吹き荒れる魔界に放り出すような人間の事を、親と呼んでいいとは思わない。
 いずれにせよ、私の幼い頃の記憶はいつもあの、荘厳華麗な水晶宮の中で、あの人と、あの人の臣下たちに囲まれて共に過ごした幸せな想い出ばかりで埋め尽くされている。彼女と彼女達と私が違ういきものであるのだということをその頃の私は気付いていなかったし、後にその事に気づいてもなお、彼女達は私達の姉であり、彼女は私の母であった。
 あの広大無辺な魔界を、たった一人で創り上げた創世の主こそが、私……アリス=マーガトロイドの母であった。




 慈しみ深き母のような、無垢な少女のような人だったと思う。およそ彼女の振る舞いには、世界ひとつを創った神であるという威厳や矜持の片鱗すら見ることは出来なかったし、彼女が努めて自分が人であるかように振る舞っていたとも思えない。魔界に住む者たちもまた、彼女が神である、という事実こそ認めていたが、決して彼女を神として扱ってもいなかったように思う。
 私はそれが疎ましかった。私にとって母である彼女が、何よりも優れた存在であることを誇示したいと願う、幼い虚栄心ゆえのことだったかもしれない。ただただ自分を愛してくれる母が、偉大なる絶対の存在であってほしいという、独占欲に似たものだったかもしれない。
 彼女が何故そのような扱いを由としていたか、終ぞ私は聞くことができなかった。どうせ詰まらない理由だろうと思っていた部分もあるし、聞いたところでその行いを改めるとは思っていなかったし、問い質すほど興味を持っていなかったとも言える。
 だから――あの日。
 どうして急に、母が私に魔法を教えてくれる気になったのかは、いまだに分からない。
 水晶宮の一番眺めの良いテラスを講堂に、始まった魔法の講義で。一番最初に、母は私に魔法とはなにかと訪ねた。
 確か、魔素を取り込んで原質変換を云々と、読んだばかりの魔道書に書いてあった最初の一節を諳んじてみせたのだと思う。答えた私に、母は静かに頷いて、言ったのだ。

 
 ――魔法というものは、けしてあなたの手の届かないところにあるの。


 届かない想い。叶わない願い。実らない恋。手に入らない絶対。
 ありとあらゆるすべてのことを可能にしてきた母は、その日。私に、私が神ではないことを教えたのだ。



 (了?)




 アリス一人称の習作。書いてみて思ったけどどちらかと言うともう少し硬い感じで学術っぽい単語が多そうなイメージ。常に思考を途切れさせず、淡々と事実を載せていくような?
 旧作を適当に混ぜていますが大体オリジナルです。そしてものすごく仮面の男さんの「アリスのための物語」の影響が強いですね。

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