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東方紅楼夢7

#23:56追記
 本日はスペースまで足をお運びいただいてありがとうございました。
 無事イベントは終了しました。スタッフの皆さま、参加者の皆さま、お疲れ様でした。




 来たる10月16日に開催される東方紅楼夢7にサークル参加します。
 「4号館 ヒ-15b 折葉坂三番地」にてお待ちしています。

◆新刊:「星屑カヴンの箒乗り」  A5折本、24ページ 100円
紅楼夢7表紙

 3人の魔法使いと
 1人の魔法少女と
 1人の大魔法使いがいます。
 さて、この中で仲間外れは誰でしょう?


 急に空を飛べなくなった魔理沙と、それを取り巻く幻想郷の魔法使い達の生き様のお話。
 アリスとパチュリーがたくさん喋ります。

 ↓以下、サンプルとなります。
▼博麗神社、縁側における巫女との日常

 雁来たる高い秋晴れの空の下、人里には実る稲穂が金色に照り映え、木々は風と共に赤橙黄の落葉を散らす。訪れた静寂と収穫の季節に、今年も秋の神様は揃って精を出しているらしい。
「お茶にしようかな」
 境内に散り敷かれる紅葉を見渡して溜息一つ。霊夢は石畳を掃く手を止めてつぶやく。
 日が傾き始めればそろそろ肌寒い秋風の中、掃除用具を片付け、袖を重ねて少女が裏庭に回れば、
「よー、霊夢、邪魔してるぜー」
 縁側には既に大の字に横たわる白黒魔法使いの姿があった。
 季節に先駆けて早々と衣代えを済ませた厚袖ブラウスの端をわずかに煤けさせているところを見るに、どこかで一戦やらかした後らしい。足元には本日の収穫と思しき本が数冊、革ベルトのブックホルダーに納まっていた。
「疲れたから茶でもくれー」
「……自分で淹れなさい」
 呆れた表情を隠すこともせず、霊夢は居間に上がってちゃぶ台に腰を下ろす。魔理沙はやれやれ面倒だぜとぼやきながらも、勝手に戸棚を漁って手際よく煎餅とお茶を用意して戻ってきた。
 やや湿気気味の煎餅をぱきりとかじり、霊夢は頬杖をついて魔理沙を見る。
「毎度良くやるわね」
「元はと言えばお前の尻拭いしてやってるんだぞ?」
 わかってんのか、と魔理沙は視線の温度を下げる。
 紅霧異変の折に悪魔の妹(フランドール)を館の外に出すきっかけを作ったのは博麗の巫女のはずなのだが、今では大図書館に通い詰めるのはすっかり魔理沙の役割だ。
「こっちはこっちで姉につきまとわれて面倒なのよ」
「会うたび命懸けの弾幕ごっこよりはなんぼかマシだと思うけどな」
「……最近、スキがあれば咬んで来ようとするのよね、あいつ」
「蚊取り線香でも焚いとけ」
 レミリア本人はスキンシップと言い張っているが、咬まれる側の食料としてはいろいろと切実な問題である。
 とは言え、魔理沙もフランドールの遊び相手を務めることで、紅魔館への出入りを黙認されている節もあるため、一概に霊夢が非難されるいわれはないのだった。
 それでもわざわざ、魔理沙は正規の貸し出し手続きを取らずに本を持ち出しているという。いつだったか新聞屋があれこれと喋っていたことを、霊夢が思い出すともなしに思い返していると、魔理沙は空の湯呑みを隣にごろりと仰向けになる。
「で、今日の夕飯はなんだ?」
「ごく潰しに食べさせるつもりはないわよ。それでなくても今月厳しいんだから」
「厳しいのはいつもだろ――ぉうっ」
 余計なひと言に、ほぼ無動作で霊夢の符が飛ぶ。すぱあんと景気の良い音を響かせて額に一撃食らった魔理沙は、衝撃に仰け反って、どしんと縁側から庭へ転げ落ちる。
 いてて、と呻きながら、ぺりぺりと額に張り付いた符を剥がして庭に身を起こし、魔理沙は口を尖らせた。
「……うー、不意打ちは卑怯だぜ」
「避けられないのが悪いんでしょ」
「最近、お前の符がハリセンと大差なくなってきてる気がするんだが」
 妖怪じゃないんだから対処を変えろよなとぼやき、魔理沙は大きく伸びをして肩を鳴らす。
 いつもならばじゃあひと勝負だぜ、と続く言葉が無いことに、霊夢は少々拍子抜けした。
 良く見れば、魔理沙の表情には色濃い疲れが滲んでいた。
 またぞろ新スペルの開発にでも夢中になって夜更かしでもしていたのだろう。珍しく素直なのも、神社に寄ったのが本当にただの休憩なのだったとしたら頷けるところだった。
「……なんだか今日は気分が乗らないし、帰るかね」
「賢明ね。そもそもさっきのであんたの残機-1でしょ」
「あー、もうそれでいいぜ。んじゃな」
 ややくたびれた声でひらひらと手を振り、魔理沙は脇に放っていた帽子を掴み、箒を手に立ちあがった。手際よく爪先だけでブーツを探り当て、庭に降りて地面を蹴る。スカートのフリルを揺らしひらりと箒の上に飛び乗って――
「うげっ!?」
 そのまま思い切り、鼻から地面に突っ伏した。
 飛び上った反動で思い切り顔から庭の植木に突っ込み、少女は涙目で赤くなった鼻をさする。
「痛てて……」
「……何やってるの?」
「ああ、いや……おかしいな……?」
 呆れる霊夢に、魔理沙は髪に絡んだ落ち葉を払い、箒を手に首を捻る。矯(た)めつ眇(すが)めつ柄の具合を確かめ、穂を調べ、重心を取るように握り、今度は慎重に座る位置を調整して箒を跨ぐ。
「…………」
 じっと目を閉じ、何事か呟いてしばし集中を凝らすことしばし。しかし、いつもならわずかの間も挟まずふわりと空へ舞い上がるはずの魔法使いの足はいつまで経っても地面を離れない。
「よ……このっ、くぬっ、ていっ」
 箒に跨ったまま、ぴょんぴょんと地面を跳ね――庭を駆けまわってひとしきり。
 魔理沙は軽く息を荒げて、霊夢の方を振り向いて。
「なあ、なんか飛べなくなったみたいだぜ?」
 そう呟いた。




▼魔法の森、工房における魔法使いの独白

 結局。
 霊夢のところで夕飯をたかり、魔法の森まで戻ったころにはすっかり夜も更けていた。じじ、と燃えるランプの灯りの下でランタンの火を消し、魔理沙は汗で汚れた額をぬぐう。普段なら味噌汁が冷めない神社までの距離は、歩けば二刻もかかる道のりだった。
 灯りにと借りた提灯をたたみ、魔理沙は工房(アトリエ)として使っている奥の部屋へと向かう。
「うーむ……」
 森の奥で茸の探索を終えてから、紅魔館まで往復しての弾幕ごっこの連戦。充実した一日には違いなかったが、それらの影響か、流石に全身はかなりの疲労を訴えている。手足は重く、できればこのままベッドに倒れ込みたい気分だった。
 だが今はそれよりも先に確認すべき事がある。収穫物をベッドの上に放り投げて、汗に濡れた服を脱ぎ散らかし、シャワーを浴びて身体を丹念に清める。濡れた髪を拭くのもそこそこに、魔理沙は下着のまま工房の机に向かった。
 山と積まれた本や実験器具を脇に押しのけ、引き出しから取り出したのは数枚の紙片。
 魔法の森の茸から抽出した成分を染み込ませた試験紙に、ナイフで指先を突いて滲んだ血と唾液を垂らす。
 乙女の血を吸った試験紙は、数秒ほどをかけて緑から青へと鮮やかに色を変えた。
「……ふむ」
 魔法使いの力というものは、単純な技量以外に多くの外的要因の影響を受ける。健康状態、精神状態、月齢に星辰、季節、信仰、地脈気脈、人間関係。千差万別の条件の中で定まらない魔力を保ち、いかに普段と同じ力を行使するか。魔法使いの命題の一つでもある。
 魔法が使えない、という状況が生じた時、まず一番最初に疑うべき最悪のケースは、魔力そのものの枯渇だ。
 過去、偉大な魔法使いが一夜にしてその魔力を失ったという例は、少なくはあるが確かに実在している。それゆえまず最初に魔理沙はそれを恐れたのだが――
「マイナス二.六。誤差範囲だな」
 試験紙での簡易検査のほかに、いくつか他の方法も試してみても結果は同じ。魔力自体に異常は見当たらない。
「ってことはだ」
 呟いて、魔理沙は棚上の瓶から取り出した星型の丸薬をいくつか取り出した。そのうちの一つを口に含み、ぽりぽりと齧りながら、残りの星弾触媒を指先で弾く。
 少女の手のひらから、たちまち光が溢れ出した。星弾はミルクを溶かしたような七色の星光を描いてくるくると室内を巡り、次々と群れをなして渦を描くようにあたりを飛び回る。
 天井にぶつかり、ぱぁんと小さな破裂音を残して消えた星弾を見上げ、魔理沙はようやく納得したように眉間の皺を緩めた。
「特に、魔力に異常がある訳じゃなさそうだな。……となると」
 魔理沙はベッド横に立てかけていた箒を取り上げる。
 もう何年も乗り慣れた、魔女の箒――質素ながら丁寧に編まれた穂先と磨き抜かれた柄。銀星蓬莱竹(ギンセイホウライチク)の箒は、別段いつもと違う様子があるでもない。
 重さや手触り、穂の流れも形もいつも通り。長年使い込まれ、しっかり手に馴染んだ愛用のものだ。
 だが、
「どう考えてもこいつが原因だよなあ」
 濡れた髪をかきあげて、魔理沙は独白する。
 魔理沙の愛用している箒は、特段、専門の法具(アーティファクト)というわけではない。
 簡単に傷んでしまっては困るため、丈夫でしなやかな竹を材料に用いたり、操作しやすいように柄の具合を改良したり、長距離・長時間の飛行時にはクッションを仕込んだり、風を掴みやすいように穂先を加工し、刻んだりと、さまざまな改造はしているが、基本的には、そこいらのご家庭で使われているものと同じ、ただの箒である。これ自体に飛ぶための魔法などなどは籠められていないのだ。
 魔理沙が箒で空を飛ぶためには、箒が箒であることが重要である。空力強化や魔力の伝達などを気にしはじめてしまったら、それはもう箒ではなく飛行魔法の専門収束具である。
 箒として使えない箒では、ロクに空も飛べるはずがない。
「……フランのとこで穂でも引っかけたか?」
 ランプの明かりを大きくして、箒を丹念に検(あらた)めてみるものの、裂け目も焦げ跡も、欠けた部分も見当たらない。
 気付かない程度の変化はあるのかもしれないが、そもそもこの箒は長年魔理沙の相棒として共に窮地を潜り抜け、過酷な戦場を駆け抜けてきた古強者である。もっと激しい弾幕ごっこで被弾して、大きな損傷を受けた事も少なくない。
 それでも機能を損なう事がなかったはずの箒が、見えないほどのわずかな損傷だけであっさりと動かなくなるのは説明がつかなかった。
「ふーむ」
 前例のないことに、しばらく難しい顔をして箒を眺めていた魔理沙だが、やがて近くの本の山へと向かい、積み上げられた魔道書の山を引っ掻きまわし始める。
 下着姿のまま腕をさすり、ガウン一枚だけを肩にかけた格好で冷えた髪に背を震わせ、くしゅ、と赤くした鼻を擦りながら。
 魔法の森の一角にある家の明かりは、夜が白み始めるまで、消えることはなかった。




▼紅魔館、大図書館における魔女二人の挿話・1

「――それじゃあ、あなたの所にも来たの? パチュリー」
「ええ」
 少女の声は、高い天井に静かに響いた。
 紅魔大図書館。広大な敷地に巨大な本棚の群れが峡谷のように立ち並び、無尽蔵に増え続ける蔵書を蓄える、幻想郷随一にして最大の書庫だ。
 本棚と本棚の隙間に設けられたテーブルの片端で、パチュリー・ノーレッジは珈琲を片手に、向かいに座るアリスの顔をちらりとのぞき見る。
「そんなに憤るような事かしら」
 静かな――しかし決して聞き逃すことのない喋り方は、彼女の魔法使いとしての技量を端的に示すものだ。五声と六律の口訣を巧みに操る舌先は、咳を交えながらも明瞭に言葉を紡ぐ。
 こほ、と小さく喉を震わせて、パチュリーは手元の本へと視線を落とし、頁を捲る。その超然とした態度は、相対するアリスにはあまり熱心な態度には思われなかったようだった。
「あまり褒められたことじゃないでしょう。どう控えめに表現しても。……飛べなくなっただなんて、自分が窮地に陥るかもしれないことをあっさりと暴露して、あまつさえ魔法使い(同業者)に解決法を相談しようなんて」
「魔理沙らしいと思うけど。必要なものを欲しがるのには手段を選ばないでしょう?」
「それは盗賊(シーフ)のやり方であって、魔法使いのものじゃないわ」
 魔法使いにとって、工房とそれを取り巻く地下迷宮は自らが拠点として築き隠れ潜む場所であり、間違ってもお宝を求めて潜りこむ場所ではない。
 罠を外し門番を打ち壊し、見張りの目を盗んで忍び込み、お宝を――ただ煌びやかで珍しく、高く売れそうだという理由だけで、本当の価値も分からないままに――かすめ取ってゆく。それは断じて、魔法使いのすべきことではないはずだった。
「大体、魔理沙は本業の魔法にしたって脇目を振ってばかりじゃない。他の様式に興味を持つのは悪いことじゃないけど、魔法を学ぶのであれば、まずは理論と実践を修めてからでも遅くないと思うのよ」
「模倣は上達の第一歩ではないかしら?」
「……自分の設計した呪文式をあんなに稚拙に真似られているのに? 許容できるなんて大人なのね」
「魔法なんて他者に披露した時点で公開術式(オープンコード)よ、模造(トレス)は起こりうるわ。解析だけならあなたもしているでしょう、アリス?
 術式を丸写しさせるような甘いことはしていないつもりだし、魔理沙も矜持にかけてそんな真似はしないでしょうしね。ひとつひとつ模倣して似たものを作り上げているなら、それはオリジナルよ」
「魔法使いとしてそれはどうなのかしら、と言っているのよ」
 アリスは眉間にしわを寄せ、紅茶のカップを傾けた。卓上にあるクッキーをひとかけら、口へと運ぶ。食を捨ててかなり経つはずの彼女だが、こうして無意識のうちに味を楽しもうとする癖は抜けていないらしい。パチュリーにはそれが少し羨ましくもあった。
 先程からの棘のある態度を含めて、要するに、些細なことで喧嘩でもしたのだろうと、パチュリーは思い至る。
 箒の直し方を求めて、魔理沙はここに来るよりも先に彼女の元を訪れていたのだろうし、魔法使いがその方向性の違いで仲互いをするのは、日常茶飯事だ。
「……見返りなしに、自分の不利を晒すなんて。あまりにも軽率すぎるわ」
「信用されていると考えたら?」
「それが軽率だと言っているのよ。仮にも魔法使いを名乗るなら、相手に手の内を見せないのは最低限の儀礼じゃないの」
「……〝魔法使いは孤高であれ〟、ね」
 魔法とはつまるところ、魔法使い自身の根源に根差す秘密の力であり、多くの魔法とは「秘す」ことをその力の源とする。誰も彼もと自分たちの魔法を伝え広めるのは、魔法の根源の力を薄めさせてしまうことに他ならないとする考え方があった。
 これはそのまま魔法使い同士の対立を意味し、故に多くの魔法使いは、広く交流を持たず、孤高を愛して迷宮や塔、工房といった自分の領地の中に籠ることになる。
 アリスの考え方は魔法使いとしてまったく正しいもので、いっそ理想的とすら言えた。
 魔理沙だってそんな風潮があること自体が分かっていないほど子供ではないだろう。それなのに、時々彼女はびっくりするくらいあっさりと、自分のことを曝け出す。
 アリスにはそれがどうしても納得いかないことであるらしい。
「……それで、貴方はどうしたの? パチュリー」
「様式違いの箒の直し方なんて、分かるわけがないからお引き取り願ったけど――何冊か参考書を持ち出したみたいね。それで修復できるとは思えないけど」
「当たり前よ。箒が触媒(カタリスト)や法具(アーティファクト)だというなら分からないではないけど」
 箒で空を飛ぶ魔法は、魔女術(ウィッカ)などを中心に広くみられるものだ。妖人花(マンドラゴラ)や狂茄子(ダチュラ)を原料とした活性霊的原質――アルカロイドその他の幻覚・覚醒作用を含んだ軟膏を全身に塗って、箒を跨いで局部を刺激する。その性的な高揚感を浮揚の魔法へとつなげるのである。
 箒自体にさほど意味はなく、他の物でも代用は利くだろう。もともと魔法的な仕組みを一切持っていないのだから、魔法的な手段で修理などできるはずがない。
「でも、そこまで言う貴方なら相談に乗ってあげるくらいはできたんじゃないかしら、パチュリー?」
「単純にそうとも言えないわ。既存の様式なら、ある程度は知識があるけど」
 ヴワル魔法図書館という巨大な大法典(コーデックス)を持つパチュリーは、知識という形であれば他の魔術様式についても知ることができる。が、蔵書があまりにも膨大すぎて、検索性に難があることから即時性にまったく欠けるのが致命的な欠点であった。
 パチュリーの見立てでは、魔理沙の魔法は独自性の強い癖のあるものだ。大鍋、蝋燭、箒と、象徴には新興の様式である魔女術を取り入れているが、丹薬を練り、草木を煮詰めて魔法を作る一面はそれよりも遥かに古い垣根の魔女(ヘッジウィッチ)を思わせる。
 そしてそのどちらも、魔理沙の魔法様式の本質ではないとパチュリーは推測していた。
「伝聞になるけれど、あの河童の子、いたでしょう?」
 河城にとりの名前は知っていたが、わざと口には出さずにパチュリーは言った。
 山に住む河童たちは、妖怪の中にあって高度な科学技術をもつことで知られている。閉鎖的な性質とされている河童の少女が、地底からの怨霊騒ぎの時に魔理沙に協力を申し出たことは、少なからずパチュリーやアリスを驚かせた。
「魔理沙は、あの子と道具屋の店主と3人で、箒に化石燃料やエンジンを積んで改造していた事があるのよ。ちょうどレミィが月に行くの行かないのって騒いでた頃かしらね。
 ……結局、かなりの推力は出たらしいけどその分重量が増えたのと、飛ぶのに必要な燃料を積んだら全然飛ぶ役には立たなくて、元に戻したみたいだけど」
 テーブルの上に、内燃機関で動く外界の乗り物の資料を広げるパチュリー。
 色刷りの丁寧な資料ではあるが、三面図や寸法幅も出鱈目なそれは、およそ設計などの役に立つとも思えなかった。この写真一枚からその機械の設計を起こし、組み立てて実際に動かして見せたというのなら、驚嘆に値する事実だ。
「これを、魔理沙が?」
「少なくとも、相方に作業を任せきりって事はなかったようね」
「…………」
 資料を前に、アリスは眉間に皺を寄せ、じっと考え込む。人形師としての彼女はいたくプライドを刺激されたらしい。
「これは極端な例かもしれないわ。でも、魔理沙は個別の様式に拘っていないことは確実かしら。実践者(プラクティカス)として必須の夜会(ナイトパーティ)や秘儀参入(サークルイニシエーション)にも固執していない。以前に強い導師精霊の教えを受けていた形跡はあるけれど、その割に独自色が強いわ。まるで――」
「……無理やり、様式を変えたみたいに?」
 言葉を切ろうとしたその先をアリスに続けられ、パチュリーは小さく息を飲んだ。自分しか気付いていないだろうという推測に、目の前の人形遣いは至っていたらしい。
 そう言えばアリスと彼女は古馴染みのはずだな、と思い返し、図書館の魔女は内心の動揺を隠して舌を動かす。
「そうね。意図的に、別の様式を覚えようと――いえ、それまで身につけた魔術様式を使うまいとしている節があるわ。魔女術の影響が濃いのに、わざわざスペルカードに星を象徴(ハンドシンボル)としているのも、考えてみればいろいろ不自然よ」
 三精――世界を象る日、月、星の三要素のうちのひとつ。それを魔法の原型に選んでいるということは、より大きな力への渇望を示している。それを、ただの未熟な少女の、拙い憧れで片づけてしまって本当にいいのだろうか
 普通の魔法使い、霧雨魔理沙。彼女事態する思いはアリスも同じであったらしい。二人の魔法使いは揃って吐息した。
「――で、その魔理沙は今、どうしてるのかしら」
「ああ、それなら……」


 ………………。
 ……。

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