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【東方SS】蛍を呼ぶ甘露の罠・2

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 一時は混乱を極めた場もとりあえず解散となり、広場に残されたのはリグルとヤマメのふたりきり。湖畔の朽ちた丸太の上に並んで腰かける二人の間を、なんとも言い難い沈黙が埋める。
 ちらり、と横目で俯いたままのヤマメを窺っては、目が合いそうになって慌てて顔をそらすことの繰り返しをしながら、リグルは自問する。
(えっと、なんでこんな――どうしてこうなった?)
 降って湧いた告白イベントに、すっかりオーバーフローしてしまった思考能力は先程から空転を続け、思うように相手の姿すら見ることもできない。
(好き? いやその、それってつまりその、告白? ……ルーミアじゃあるまいしまさか食べ物の好き嫌いってことじゃないよね? よね? ってことはつまり、つまり、その……えええええ!?)
 時間とともに落ち着くどころかますます混乱の度合いを増してゆく頭の中。リグルは膨らみかけた様々な想像を追い払うようにぶんぶんとかぶりを振った。
(って、いつまでもこんなんじゃしょうがないわよっ)
 とうとう緊張に耐えられなくなったリグルは、半ば自棄になって口を開く。
「「あ、あのっ」」
 意図せず上げた声が見事に重なり、ぶつかった視線がリグルの顔の温度をかぁーっ、と上げてゆく。同じように真っ赤になった顔を伏せるヤマメの仕草に、リグルはますます動揺してしまった。
 とにかく何か言わなければ。そう焦りながら無理矢理に言葉を継ぐ。
「え、ええとっ」
 高鳴る鼓動を抑えながら、あさってを向いて続けた声は面白いくらい裏返っていた。
「え、ええと、その、つまり――わ、私と、付き合って、って話だけど」
「う、うんっ」
「……ね、念のため聞かせて。あの、まさかとは思うけど、私のこと男だとか思ってるとか、そういう……?」
「そ、そうなのっ!?」
「違うよ!? 断じてオトコノコ違うからね!」
 慌てて否定するリグルに、ヤマメはそっかあ、と残念そうな、安心したような不思議な表情でそっと胸を撫で下ろす。
「……あー、ビックリしたよぉ。そりゃね、私も女の子同士でヘンかなって……ちょっとは思ってたけど」
「そ、そうかな?」
「……でも、違う。うん。違うみたい。そういうのじゃないよ。きっとあなたはあなただから。私は、リグルがリグルだから、好きになったんだと思うし」
「そ、そう、なんだ」
 堪え切れなくなった視線を膝の上のプレゼントの包みに落として、リグルは想いを巡らせる。
 なんでも、これまでもヤマメは何度も告白のためリグルの家を訪れていたらしい。しかし、いざ会おうとなるとどうしても気後れし、きっかけがつかめないまま、いつもその場にプレゼントだけを残して帰ってしまっていたのだという。
 どうして話しかけてこなかったのかと言えば、ヤマメたち地底の妖怪は嫌われ者だからだという理由らしい。
 けれど、こうして話していれば、ヤマメはごくごく普通の妖怪だった。確かに少しばかり特殊な能力を持っているが、そんなのはリグルも彼女の友人たちだって似たようなものだ。
 リグルは不思議に思い、それを口にする。
「あのさ、ヤマメ。……気分悪くしたらごめんね。正直、まだその、好きって言われてもどうしていいか良くわからないんだけど……」
「うん」
 こくり、と固い息を飲み込み、リグルはヤマメを見る。
「なんで、私を?」
「……一目惚れ」
「へ?」
 ぽかんと口を明けたリグルに、ヤマメは胸の前でもじもじと指を絡めあわせる。
「こないだから、地底と地上の交流が始まったじゃない。それで、地上との連絡孔の増掘と拡張が決まったのよ。私がそれの担当になっててね。それで――」
 地上と地下の偉い妖怪同士が、山の神様の仲介で巫女と一緒にそんな話し合いを持ったという噂は、リグルも耳にしたことがあった。
「何年ぶりになるかなぁ、空を見たの。ずっと地底にいたからねぇ。折角だから神社にでも挨拶に行こうって思って……それで、リグルが飛んでるのを見たんだよ。
 遠目だったし、その時はリグルは気付いてなかったみたいなんだけど」
「そう、なんだ」
「うん。リグルの羽根、……とっても綺麗だった」
 青い大空――もう記憶にもぼんやりとしか残っていなかった地上の空に、まるで硝子細工のような美しく光る透明な羽を拡げて飛ぶ、少女の姿。
 地底に隠れ潜んだ土蜘蛛が、ずっと昔に失い忘れていたもの。それをリグルが思い出させてくれたのだ、と。
 そう、ヤマメは言う。
「う……あ、その、ありがと……」
 こんなにもまっすぐな好意をぶつけられて、リグルはますます言葉に詰まってしまう。
 自分にはないもの、足りないものを素直に素敵だ、と言える。それはきっとすごい事なんじゃないだろうかとリグルは思った。
 まして、蜘蛛は蟲の天敵でもあり、蛍よりもよっぽど強力な妖怪として有名だ。人を襲ったり、美しい女性の姿を取ったり、時には鬼と呼ばれて英雄と呼ばれるような人間と太刀回りを演じることだってある。
 事実、リグルの目にもヤマメはとても、可愛らしく素敵な女の子に見えた。
 そんなヤマメが、自分のことをす、好き、だなんて――
(あああ、落ち着け私っ!?)
 好き、という単語を思い浮かべた瞬間、ぼっと頭が沸騰を始めそうになる。ぎゅっと目を閉じ、リグルは強引に話題を変えた。
「えっと、そ、その服、可愛いね」
「あ、うん、ありがと。これ、お気に入りなんだ」
 頑張って作ったから、とはにかむヤマメ。
「え? それ、自分で作ってるのっ?」
 リグルの服は使役する天蚕たちに時間を掛けて編ませたものだが(そのため下着まで100%ピュアシルク、天蚕糸の特製なのだ)、ヤマメの衣装は彼女自身が妖力を籠めて編んだものだという。
「うん、ほら」
 ヤマメがちょいと持ち上げた袖を軽く引っ張ると、布地はさらりと極細の糸束に溶け崩れてゆく。むき出しになった白い腕で、ヤマメは糸の端をはい、とリグルに手渡した。蜘蛛の糸は蚕のそれよりも強靭で、なおかつ肌触りでも負けてはいない。
「すごい……」
 リグルが糸を返すと、ヤマメは再び目にもとまらぬ早業で、服の袖部分を編み直してゆく。ものの数秒で元に戻った服に、リグルは再度感嘆の吐息をこぼした。
「お、大袈裟だねぇ。別にこれくらい、どーってことないよ。それに、あんまり自慢できるような事でもないからさ」
「どうして?」
「や、ははは。だってほら、私の住んでるとこ地底じゃない? みんなに嫌われて地底に逃げ込んだ妖怪がさ、あんまり浮かれ気分でお洒落とかお化粧とか、そういうのってどうかなーって思うわけさ」
「そんなことないよ。とっても似合うと思う」
「ぅ、あ。……ありがと」
 それは、リグルの心からの言葉で。
 今度はヤマメが耳まで赤くなる番だった。


  ◆ ◆ ◆


 さて。そんな具合に初々しい二人を、近くの茂みの中から窺う怪しい影がいつつ。
「逢引なのかー」
「ねぇ、このあとどうなるのかなっ」
「ああもうじれったいわねっ! 何やってんのさリグル、早くいくとこまでいっちゃえばいいじゃない!」
「ねえチルノちゃん、意味分かって言ってる……?」
 無論ながら、友達思いの彼女たちが大人しく場を譲るわけもなく。物陰から応援を送り続ける一同のテンションは激しく高い。
 特にかしましい3人から少し離れて取り残された大妖精がちらりと脇を見ると、桶から半分顔を覗かせてはらはらと成り行きを見守っているキスメと視線が合った。
 どことなくシンパシーを感じる(髪の色も含めて)二人は、そろって苦笑する。
 ヤマメとリグル、湖の側に並ぶ二人の背中は、最初の頃に比べてだいぶ近くなっていた。が、寄り添うには至らず、わずかに離れたその小さな隙間がどうにももどかしい。遠目にもわかるほど落ち着かない様子のリグルは、すっかり会話の主導権も握られっぱなしのようだ。
「なんていうか、最初はそう見えなかったけどヤマメって結構お姉さんっぽい感じだね? あの服可愛いなぁ」
「見た目あんまり変わらないけど、不思議だねー」
「……うん、きっとあの子、リグルにはお似合いよ」
 チルノが、そう言って小さく笑った、その時。
 ふわり、どこからともなく花の香りがあたりに満ちる。
 ……それは本来、何をおいても警戒せねばならない危機の先触れのはずだった。
 しかし。降って湧いた友達の恋バナに夢中になっていたチルノ達は、迂闊にも全員、それがなんの予兆なのかをすっかり忘れていた。
「――へえ、誰が誰とお似合いなのかしら」
 靴音とともに、じっとリグルとヤマメの様子を窺うチルノの背中に、声がかかる。
「決まってるじゃない、さっきあの子がリグルに告白したの。そんでいま初デート中ってわけなのさ! あたいたちも応援してあげてるんだから邪魔しないでっ」
「……それで?」
 ざわり、と森の木々が梢を震わせる。いつの間にか自分以外の返答がなくなっていることに、チルノはまだ気付かない。
「ああもうっ。だからリグルが心配でこうやって見てるんじゃない。馬鹿ねっ」
「……そう」
「ぐえっ?!」
 いきなり背後から凄まじい力で頭を掴まれ、チルノは悲鳴を上げた。ゆらり、と動いた影は、そのまま容赦なく氷精を宙に持ち上げる。
「……げ!?」
 反射的に振り向いて、そのまま驚愕に固まるチルノの最後の叫びは、あっさりと途切れた。




 (続く)

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