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【東方SS】蛍を呼ぶ甘露の罠・1

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「「「「すとーかー?」」」」
「あ、いや、そうって決まったわけじゃなくて、そうなのかなーって思っただけよ。あくまでね?」
 話を切り出したとたん、その場に居た全員に声を揃えて聞き返され、リグルは困った顔で頬をかく。
 ここは湖畔に程近い森の広場。紅魔館とは湖を挟んで対岸のこの地域は、吸血鬼の勢力圏からはやや遠く、かといって魔法の森の魔法使いが出没するキノコの群生地というわけでもない。結果、ここにはそれほど力の強くない妖怪や妖精たちが遊び場のように群れ集うようになっている。
 しかし、いつもの面々の暢気な雰囲気とは対照的に、リグルはずいぶんと憔悴しているようだった。
「最近、家に見たことない包みが置いてあったりしてさ。気になってしょうがないの。誰からかもわからないし。一応聞くけど、みんなじゃないんでしょ?」
「だって。ルーミア知ってる?」
「全然?」
 闇妖に倣うようにこくこく頷く一同。
「包みって、中身は?」
「見てない。なんか気持ち悪いもん。……それに、ずーっと誰かに見られてるみたいな感じもするんだよね」
「ええっ……怖いねっ」
 本当にストーカーなのかな、と応じる大妖精を、チルノは笑い飛ばした。
「まっさかぁ。大ちゃんそれはないない。リグルに限って」
「な、なによそれ! わっ、私だってねえ、ファンのひとりやふたりくらいっ」
「熱心なファンだねー」
 こぶしを握って立ち上がり、触覚をぴこんと立てて頬を膨らませるリグルだったが、身構えたチルノと応酬を始めるでもなく、すぐに空気の抜けた風船のようにすとんと腰を下ろしてしまう。そのまま抱えた膝の上に顎を乗せ、背中を丸めて深い溜息。
「……はあ。なんかもう疲れた。普通に考えて気にしすぎなんだろうけど、いちど気になったらどんどんそう思えてきちゃってっ……」
「お疲れだねー」
 俯いたリグルの頭を、よしよしと撫でてやるルーミア。思ったより深刻そうなリグルの様子に、さすがにチルノもそれ以上の軽口は自重する。
「しょうがないなリグルは。……なんか心当たりないの? そいつに」
「あったらこんなに困ってないってば。それに本当に居るのかどうかもわかんないんだから」
「……でもさー」
 何事かを言いかけたチルノだが、そこであれ? と声を上げた。きょろきょろと左右を見回して、
「ねえ、そういえばみすちーは?」
「あれ?」
 ついさっきまで一緒にいたはずの彼女の姿は、いつの間にか話の輪から消えている。
「さっきまでいたよ。帰っちゃったのかなー?」
「でも、それなら一言くらいあっても……」
「ね、ねえ、あれ!」
 皆が夜雀の姿を捜す中、リグルが森の一角を指さす。
 広場から少し離れた、樹齢にして数百年を数えると思われる苔むした老木。その節くれた枝の先に、白く禍々しい粘ついた糸が幾重にも絡み付いている。
 ミスティアはまるで百舌の早贄のように、その枝先に上下逆さまに括りつけられていた。
「……みすちー?」
 一本一本は髪よりも細い糸が何本も束ねられて、執拗なほど念入りに、哀れな夜雀の肢体を拘束している。
 不自然な角度で身体を固定された彼女の服の裾は無惨に引き裂かれ、むき出しの太腿や二の腕に深々と食い込む糸がひどく痛々しい。
 四肢はおろか、翼の自由さえも奪われて宙吊りにされ、無惨な姿となった彼女は、うっすらと瞳を開け、ぼんやりとした瞳であらぬ方を見つめていた。
「んぅ……ッ」
 糸の束に割り裂かれて塞がれた唇の隙間から、苦しげに息をこぼし――ミスティアはじっとりと汗の浮いたうなじを震わせ、わずかな身じろぎを繰り返す。
 あまりにも無惨な姿の友人を前に、チルノたちはしばし言葉を失い――
「なんだ、みすちーこんなとこにいたじゃん」
「なーんだ」
「いや待ちなさいっ!?」
 あまりといえばあまりな対応に、ミスティアは口を塞ぐ糸をぶちぶちと噛み千切って全力で突っ込んだ。宙吊り蓑虫状態のまま、全身を揺すって抗議の声をあげる。
「こんな目に遭ってる友達に対して、もうちょっと言う事ないのっ!?」
「だってほら、いまさら誰に食べられたのって話だし」
「定番ネタに頼りすぎるのはどうかと思うなー?」
「うん。新鮮味に欠けると思うよみすちー」
「うわぁーんっ!?」
 チルノにまで言われてしまえば、もはや夜雀に立つ瀬なし。ミスティアは蓑虫状態のままぷらぷら揺れながら滂沱の涙を流す。
「と、とにかくこれ外してっ! 早く下ろしてよぉっ」
「もー、しょうがないなぁ。ルーミア、そっち持って」
「了解なのかー」
 絡み合った粘つく糸を引き剥がすのは意外に困難を極め、ミスティアの救出にはかなりの時間を要した。
「あう、べとべと……」
 ようやく解放され、ぺたんと地面にお尻をついて、半泣きで顔に粘りつく糸をぬぐうミスティア。少し赤くなった鼻の先を擦ってすん、と啜り上げる。なんとも艶っぽいその仕草に、その場の皆がそれにしてもこの子食べられるのが似合うなぁ、と思ったりした。
 リグルが差し出したタオルでミスティアの顔をぬぐってやるその隣で、チルノはむぅ、と顔をしかめる。
「なにやってんのさみすちー。リグルがせっかくオンナになれるかの瀬戸際だってのに」
「いや私そんな話してないよ!?」
 思わず抗議を入れるリグルだが、それは見事にスルーされる。
「わかんないわよ。さっきいきなり目の前が真っ白になって、口も塞がれて、身体が動かなくなったと思ったらそのまま引きずり込まれるみたいに――ってちょっと! みんなで『またかよ』みたいな顔しないでくれる!?」
「でもみすちーだし、ほら」
「だから鳥頭とか三歩忘却とかそういうんじゃなくてねっ! っていうかチルノにそーゆう顔されるのなんか妙に腹が立つんだけどっ」
「ああほらみすちー、動くと上手く拭けないってば」
 リグルに言われ、しぶしぶ逆立てていた羽根を下ろすミスティア。
 彼女を絡め採っていた粘つく糸を指先に摘み上げ、大妖精とルーミアも首をひねる。
「なんだろうね、これ。トリモチじゃないみたいだし……人間の罠?」
「あんまり美味しそうじゃないねー」
「ほんとにみすちーは情けないなぁ。そんなんじゃまた食べられちゃうよ?」
「食べられてないってばっ」
「……ちょっと見せて」
 言い合いを始めたふたりをよそに、リグルは神妙な面持ちでその糸をじっと覗き込んだ。
「どしたの、リグル」
「これって……」
 彼女が心当たりを口にしかけた、その時だった。
「あ、あのっ!」
 背後からの声に、一同が揃って振り向けば、そこには黒と褐色の服を着て、金髪を頭の後ろで結わえた少女の姿があった。その背後ではもう一人、桶から顔を覗かせるおさげ髪の少女が恐る恐る様子を窺っている。
「な、何よあんたたち」
「……ええとねぇ、その、どこから話せばいいのかな……。あのね? 私たち、地底から来たんだけど――」
「地底!?」
 地底の妖怪――それがどういったことを意味しているのかはチルノでも知っていることだった。妖怪と人間が共存するこの幻想郷で、様々な理由でそのコミュニティからも拒絶された妖怪たち。
 その関係は、決して友好的と呼べるものではない。
「まさか、みすちーにこれやったの、あんた?!」
「え、えーっと……」
 口篭る少女のその反応が、何よりも雄弁に答えを示していた。
 たちまち高まる緊張のなか、チルノはいち早くスペルカードを構え、皆を庇うようにして前に立つ。
「よくもみすちーを! 勝負なら相手になるわよっ!」
「ちょ!? ち、違うよ、そうじゃなくてね!?」
「もんどうむようっ! みすちーの仇だぁっ」
「チルノちゃん待って! この子、ひょっとして――」
 スペルカードを宣言しかけた氷精の袖を、大妖精がぎゅっと引っ張って押しとどめる。
「なにすんのさ大ちゃん、あたいは今……」
「ま、待って! 間違えちゃったのは謝るからっ! 誤解なんだってば!」
 拳を握り締め、いまにも泣き出しきそうになるのを懸命に堪えながらの少女に、敵意らしいものは見られなかった。深く頭を下げて、彼女は縋るように声を絞り出す。
「だからお願い、話を聞いてっ」
「……話?」
「チルノちゃん、聞いてあげよ? みんなも」
「…………わかったよ」
 大妖精に諭されて、チルノは不満げながらもスペルカードを引っ込める。
「本当にごめんなさいっ。ちょっとその、巣にかかった! と思ったら急にテンション上がっちゃって……」
「巣?」
「あ。自己紹介もまだだったね。私は土蜘蛛の黒谷ヤマメ。こっちはキスメ」
 彼女の背後で釣瓶落としがちょこんと頭を下げる。
 そうしてヤマメと名乗った金髪の少女は、顔を上げ、じっ、とリグルを見つめた。
「それで、そ、その子に……大事なお話があるのっ」
「へ? 私?」
 ここで自分のことが出てくるとは思っていなかったリグルは、急に話を振られてまばたきをひとつ。
「だ、大事な話なの……お願い」
「え、あ、まあ、いいけど……」
 ヤマメは隣のキスメと視線を交わし、決意の表情でリグルの正面に進み出る。右足と右手が一緒に出るぎこちない歩き方で、いまにもぎぎぎ、と錆びついた音まで聞こえてきそうだった。
 前髪に隠れていてもはっきりわかるほどに、その頬は紅く染まっている。
「えっと? なに?」
「そ、その、あのっ」
 尋ねるリグルに対し、言葉がつっかえた様子であうあうと呻くヤマメ。そんな彼女に後ろから応援が飛ぶ。
「ヤマメ、頑張ってっ」
「……うんっ」
 キスメに促され、力強く前を見た彼女は、そのまま背後に隠し持っていた包みをリグルにぐっと突き出して、
「ず、ずっと前から好きでしたっ。わたしとっ」
 リボンをかけたプレゼントと一緒に、一言――


「わ、わたっ、私に食べられてくださいっ!」


 ……とりあえず、最悪の告白でした。



 (続く)




 ちょっと今週更新してる余裕もなさそうなので、まだwikiの方でも公開してないお話をうpしてお茶を濁してみる試み。
 このお話は大⑨州東方祭で頒布した「地と星に逢う金蘭の契り」が初出で、そのあと加筆・改訂して月刊NIGHTBUGに投稿したものになります。
 当時あんまりヤマリグ本を見なかったので、じゃあ自分で書くわとばかり書いたお話。
 どっちかってーとヤマメさんは土蜘蛛という出自もあって恋愛巧者な気もしますが、そこはそれ地底住まいゆえの初々しさと言いますか。

 以前に載せた「【東方掌編】地底恋愛倶楽部」がこれの前日譚に当たりまして、最初は一緒に書いて本にするつもりだったんですが、テンポが良くない諸々の理由で別々にすることになりました。
 

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