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はるはる・9

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「――と、言うわけで。どうだろうか。明日あたり」
 説明を終えて、夕は一同の顔を見回す。
 場所は先日発見した西館の屋根裏部屋。住人たちを集めて秘密の話をしたいという夕の要望により、会議の場所はここが採用された。額をくっつけあうようにして車座になり、ロウソクの明かりのなかで僕達は互いの顔を見合わせる。
 栄えある第一回の議題は、先日の模試以来すっかり塞ぎこんでいる一之瀬さんをどうにかしよう、というものだった。
「確かに、いつまでもアレじゃ本当に6年目突入だね。励ますっていうのは賛成かな」
「ふむ。それで鍋か。俺は美味いものが食えるなら構わんが。なあ娘」
「四捨五入して30になる一児の親が未成年に食事をたかるのは人としてどうかと思います」
「ははは。そう褒めるな」
「誰も褒めてないです。あと勝手に頭を撫でようとしないでください。悲鳴あげますよ」
 相変わらず幹也さんには辛辣な芽衣ちゃんではあったが、一之瀬さんを励まそうというアイディアそのものには賛成の様子。
「反対……はないようだけど。ゆゆさん、準備はどうするの?」
「鍋やたコンロやらは物置を漁ればいくらでも出てくるはずだ。元が旅館だからな。昔、祖父に連れられて見たことがある。問題は材料の方だが」
 腕組みをして、夕は吐息をひとつ。
「……流石に山菜だけじゃ味気がなさすぎるだろう。楓さんにも協力をしてもらっていくつか当てはつけてあるが、心もとないのは確かだ」
「簡単だ。葛原の爺さんに話して配給所に連絡をつけて貰えば」
「ん。……でもあまり大事にはしたくないかな。そうそう甘えてばかりもどうかと思うし」
 確かに葛原翁なら喜んで手伝ってくれるだろうけど、一之瀬さんを励ますのに人頼みになるのはあまりしてはいけないことのような気がする。
「お固いな少年。人間楽をしないと擦り切れて死ぬぞ?」
「楽をしたまま飢えて死んでください。では、各自が出来る範囲で材料を調達する――ということでどうでしょうか?」
「……だね」
「ああ」
 芽衣ちゃんの提案は一番無難に思えた。たとえ大したものでなくても、それはやっぱり僕たちがしなければいけないことだろうから。
「では――明日の夕方までに手に入りそうなものを私まで教えてくれ。献立はそこで考える」
「頼むね、ゆゆさん」
「ああ。任せておけ」
 気合いを入れて胸を張る夕。これは明日の夕食は今から楽しみだ。
「社長と鈴音にも声を掛けておこうかな。もし間に合うなら手伝ってもらうよ」
「うむ。こういうのは大勢の方がいいもんだぞ、少年」
「偉そうな態度だけは一人前ですね」
「当たり前だ。俺はお前の父親だぞ、俺の娘」
「……今日ほど遺伝というものを恨めしく思ったことはありませんでした……」
「いや、そこまで本気で悔しそうに言ってやるな芽衣さん。……ああほら、幹也さんも泣いているぞっ!?」
 相変わらずふたりの対処に慣れていない夕を尻目に、さてどうしよう、と僕は思案をめぐらせるのだった。


(続く)

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