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はるはる・7

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「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーー……」
 まるで幽霊が嘆き悲しんでいるような嗚咽が、食堂のから漏れ出していた。何事かと思ってドアをのぞくと、そこには壁に張りついてこっそりと中の様子を窺う夕。
「……どうしたの?」
「いや、彼女だ」
 視線の先を追えば、テーブルに突っ伏して悶えているどてら姿の一之瀬夏海さんの姿があった。
「どうも、今日先日受けてきた模試の結果が届いたようなのだが」
「ああ、なるほど。予想以上に思わしくなかったってオチかな。……落ちちゃ困るわけだけど」
「誰がうまいこと言えといった」
 ぺしり、と後頭部に夕のツッコミが入る。
 その間にも一之瀬さんの嗚咽は続いていた。瓶底のような眼鏡の内側を涙で大洪水にして、派手に鼻をかみながら、わんわんと泣き続けている。
「あー、ええと、一之瀬さん?」
「もうだめ……死ぬわ、死んだほうがいいのよ明日くらいに。わたしみたいなアホの子はどうせ何年経っても合格なんか無理なのよ……浪人のまま一人寂しく老後を送っていくの……自分の人生いったいなんだったんだろうって思いながら……」
 ひとりでぐるぐると思い悩みながら、一之瀬さんはどんどんと沈んでゆく。
「末期的だねぇ」
「悠長だな君は。……放っておくわけにもいくまい。いまいち頼りにならない気もするが景、うまく励ましてやってくれ。その間に何か作ってくる」
「うん、了解」
 どうやら夕もこの雰囲気には耐えられないらしい。確かに病は空腹から、何かおなかに入れば少しは変わるだろう。
 アイコンタクトを返すと、僕は夏海さんの隣に歩み寄って椅子を引く。
「ほら、元気出して。別に今回が本番ってわけじゃないんだよね。だから気にすることないって。むしろその前に弱点とかやるべきことが見つかったってことだよ」
「うん……そうなんだけどね。もうどれこもこれも大惨事だし、一体どこから手をつければいいってのよぅ……」
「ああほらほら、落ち込まないっ!! 起き上がって! 涙を拭いて!! そう。ぐっと胸を張って前を見て!! そうだよ。そんなに落ち込んでたら4年目もおんなじ結果になっちゃうかもしれないしさ」
「励ましてくれてありがとうだけど、ごめんもうわたし4浪なんだよね……あは。あはは………」
 …………。
 ……おや、ますます空気がどんよりと。不思議だ。
「あはははは……そうよどうせわたしはこの社会からも卒業的ないまま今年で人跡未踏の23歳を迎えちゃう人間としてできそこないなのよぅ……もうお肌の曲がり角も目の前……あはは……死のう」
「………えーと」
「景。……君は実にダメだな」
 ココアを持って戻ってきた夕が、実に冷たい視線で僕を見ていた。


 (続く)

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