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【天下無双・零】 アルティメット・ランブル編 29

■MASTERSCENE04/玄野宗一郎etc


 ▼

 英国グリニッジの刻む世界標準時からタイムラグなく転送された中央時計塔の時報コールにリンクして、IANUSのオートクロックスが15時30分を刻む文字盤を、それぞれの保有者の脳裏に描画したその瞬間。
 照り付ける白銀灯の中を疾走する8台の車両は、タイヤを軋らせてアンモニア・アベニューの4番通りに停車する。
 昼夜を問わず人ごみに満ちた雑踏を切り開くテープの中、寸分違わず同じ角度を保って並んだ車両の中で、玄野宗一郎は通信に最後のひとことを叩き込む。
「いつまでも女子供の捜査ごっこに任せていては埒が開かん、か」
 袖から真っ黒の義手を覗かせて、司政官直達の命令を一瞥すると、黒塗りのナイトレーベンから金と黒の制服を覆い隠す、濃灰のコートの男達が姿を表す。
『現時刻をもってブラックハウンドの捜査権限は治安対策課に移行されます。遅滞なく任務を遂行しなさい』
「了解」
 猟犬の誇る三つの牙、治安対策課。その精鋭達にリンクスを介して御堂茜隊長の命令を転送し、玄野は告げる。
「首謀者の一人の潜伏先を割り出した。機捜課の解析班に協力を要請。通信記録から他の連中の居場所を当たれ。鑑識班に連絡。証拠品A-57の確定を急がせろ。斑鳩に4名を派遣。乗じて馬鹿騒ぎしてるガキどもを制圧しろ。捜査の邪魔だ。
 いいか、時間を無駄にするな。相手を見間違うな。
 千早だ。俺たちの敵は、千早だ。
 こちらが1秒手間を掛ければ連中はそれだけ事実を隠蔽する。本社の利益のためなら命を投げ出す時代錯誤な連中どもだ。治安対策課の総力を上げて、連中の全てを暴いて暴いて暴き尽くせ。裁くのはそれからでいい」
 玄野の指示に従って、治安対策課の男達は淀みなく配置に付いてゆく。程なくしていくつかの情報が彼の元まで通達される。
 視界を塞ぐ仮想ディスプレイに並ぶデータを一瞥し、そこから読み出した情報を浚い、さらにいくつかの指示を飛ばす。瞬く間にに現在のN◎VAを支配する馬鹿げた対立構造の全貌が明らかになりつつあった。
 リンクスを揺らす着信音。
 玄野はわずかに表情を変えることもなく着信先を確認、応答する。
「玄野捜査官」
「……なんだ」
 通信を送ってきたのは春亥子みのり――若くしてハウンドの中枢にあり、“ブラック・プレス“の名で関係機関に揶揄されるハウンドの広報官だ。
「“善意の市民”からの情報提供がありました。木更タタラ街で戦闘を確認。なおも継続中との事です。軍警データベースより交戦記録より98%の確率で被疑者と一致」
 みのりの符丁に玄野はわずかに眉を動かす。
 “善意の市民”――通称“サイレントマジョリティ(意志なく声なく姿なき大多数の市民)”。軍とセニットの抱える実体なき無謬の情報機関の通称だ。
 どうやら広報官の立場を利用し、みのりはその一部を流用したらしい。多くのトーキーと同じように報道の立場に身を置きながら、彼女は市民の安全のためならば白を黒に塗り替えることを厭わない。
「誘導のため私の《腹心》を現地に向かわせました。合流をお願いします」
「……了解した。津久田、峰、浅森、ロベルト。出るぞ、準備しろ。……後方処理課と一戦も有りうる、気合いを入れていけ!!」
「「「「了解!!」」」」
 玄野の号令一過、堅牢な意志に身を包んだ司法の猟犬達が、声を揃え高らかに応答の吠え声をあげた。


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 真性工房のブラックハウンド&警察系所属キャスト総出演、その2。
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【天下無双・零】 アルティメット・ランブル編 28

■MASTER SCENE 03/神無木小枝子etc


 ▼

「…………」
 溜息をつきたくなる気分を堪え、“眼鏡のサエコさん”神無木小枝子はじっと手を見る。
 彼女は今、眼鏡を外し千早冴子の代役として、機動捜査課の指揮室で課長の席に座っていた。こんなことで実際に機動捜査課への待機命令が解けるわけもなく、いっそ気休め程度のものなのだが、たとえなにも言わなくとも、そこに彼女が居ると居ないでは随分と士気が違うのだと、隊員達は口を揃えて言う。
 小枝子としては、自分が露骨にお飾り扱いされている気分であまり嬉しくない。
 ともあれ、なし崩し的に課長代理を勤めることになった小枝子は機動捜査課に残されたわずかな権限の隙間を最大限に利用して事態の収集を指揮していた。
「課長、木更津の被害出ました。フリーのトーキー経由ですけど信憑性はグリーン。ビルが三つくらい倒壊してるっぽいです」
「なによそれは・……映像あるのね? 解析回して。メモリ巡査、どこ?」
「3時間前にレイさんを止めるって出ていったきりです!!」
「……そう。まったくあの2代目最凶コンビは……。
 よりにもよって課長の留守にこれはないわよね……里美君もキーファー巡査も全然連絡つかないし。なんでウチの連中、こんなに勝手な人ばっかりなのかしら。……ほら芹原さん、一応応援なんだからサボってないで起きて!!」
「……うぃーっす」
 デスクに突っ伏したまま、生活安全課から臨時に派遣されてきた芹原なずなが『起きてますよー』とばかりに手を持ち上げる。だがその態度にはやる気のカケラも見受けられない。
 生活安全課(あそこ)はみんなこんな人ばかりなんだろうか、と小枝子は少々不安になる。何しろあのゼロですらすっかり昼行灯と化した魔の場所なのだ。人をダメにする電波でも満ちているのかもしれない。
「――で、遊月さんと連絡は?」
「それが、まだ。……反応も掴めないんですけど、斑鳩の辺りでロストしてから、全然足取りも追えてません」
「コール続けて。何かあったら報告、お願い。私がいなかったら葵ちゃんに直接でもいいから」
「はいっ」
「サエちゃん、毎日こんなことしてるわけね……。死にそう」
 唯一動けそうな鑑識班の遊月も使えず、他の部下は軒並み現場に出張っている。待機命令中だというのに。普段冴子が晒されているストレスをもろに実感し、小枝子は胃のあたりに重いものを感じて呻いた。
「SSSとの連携は?」
「それがその、担当外のヒトがさっきから回線を占領しちゃってて……」
「あーーー、もうっ!!!」
 外部との連絡の大半を封じられた現在の機動捜査課において、SSSとの回線は貴重な情報源である。それをこともあろうに、SSSの捜査官が私有しているというのだ。
「誰よ!? トラム……? いかにも三下みたいな名前ねっ!!」
 とうとう我慢の限界がきた。
 事実上、現在の機動捜査課の指揮系統は滅茶苦茶。おまけに曲者揃いの隊員達はそれぞれが勝手に現場で動いているらしく、ほとんど統制も取れていない有様だ。いくら小枝子が気を張っても、組織で動けないのでは有効な手が打てるはずもない。
「こんなんじゃサエちゃんに合わせる顔ないよぅ……」
 ついつい、大学以来のあだ名で友人の名を呼び、小枝子は弱音を吐いた。彼女が大変な時だからこそ、しっかりしなければならないと言うのに。
 頭を掻きむしって苦悩していた小枝子の元に、緊急回線でコールが入る。
「じゃあ……って、あ、隊長? は、はいっ、失礼しましたっ!! ……え? 司政官の緊急放送? 生で? ――だ、誰か早くヴィジョン付けて!! マリオネットよ、早く!!」
 小枝子の指示に、指揮室の仮想モニタが一気に拡大された。上等な机を叩き弁舌を振るう司政官、稲垣光平の顔が指揮室いっぱいにひろがる。。
「……えー、然るに、厳重な警備の死角をついてこのようなテロ活動が行なわれたのは誠に如何であり、ただちに事態の収集を行なうべく、対策本部ではブラックハウンドによる鎮圧班を組織いたしました。
 これにより、混乱は48時間以内に集束に向かうこととなります。私は政治生命を賭けてこの緊急事態に対応する所存であり――」
 その内容に、情報捜査官達の間にも動揺が広まってゆく。
「どういう、こと……?」
 高等警察という立場ゆえ、どうしても犯罪に対して後手になりがちなブラックハウンドの内部で、現場での第一対応を行なうために作られたのが機動捜査課のはずだ。今まさに現場で事件が起きているというのに――その指揮権はもはや機動捜査課にはないという。
「サエちゃん……なにしてるのよ……」
 かちり、と回線を閉じた小枝子は、なおも己の政治手腕に付いて力説を振るう司政官の顔を見つめながら、呟く。

 本日一五三〇をもって、本件は機動捜査課より治安対策課へ引き継がれる。
 機動捜査課は以後、待機命令を継続し、治安対策課玄野捜査官の指揮に従うこと。

 御堂茜の隊長署名と千早冴子機動捜査課課長の連名を経て通達された命令は、あまりにも一方的なもので。
 小枝子の心は激しく揺れていた。


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 真性工房のブラックハウンド&警察系所属キャスト総出演、その1。

【天下無双・零】 アルティメット・ランブル編 27

■RESEARCH SCENE 19/鵺野七希&宮坂凱


 ▼

 ――軽い。
 集練気によるウェイト差を考えても、宮坂の拳はあまりに軽い。打ち据えられた一撃は、生身の七希の身体にもさしたるダメージを与えていないようだった。
 だが、疾い。
「ッ……ざけんなぁッ!!」
 怒声と共に振り回した七希の拳は、宮坂のパーカーの裾をちぎり取る。
 それでも少女は未だ、宮坂の身体を捕らえられずに居た。
「――……アンタ、もういいわ。全力で潰してやる」
「やるなら速くしてくれ。本気になる前に倒してもつまらない」
「本ッッ当、笑えない冗談が好きねッッ!!!」
 七希の攻撃を最小限の動作で裁き、内懐に迫ってくる宮坂が放つコンビネーションは、七希の攻撃に比べれば遥かに遅い。ぱぱぱ、と軽い音を響かせ放たれる拳が少女の四肢を容易く撃ち抜いてゆく。
 単純な速度で言えば音速を超過する七希の攻撃が、通用しないのだ。
「肩ががら空きだぞ」
 指摘と共に、少女の腕に宮坂の手がするりと絡み付き、容赦無くねじられる。
 べきり、と鈍い音を立てて七希の右腕に激痛が走り、感覚が途切れた。
 折られたのだ。
「なに、なんなの、アンタ……ッ!!」
「俺は俺さ」
 空を射貫くかに見えた七希の爪先を、軽く弾いてカウンター気味のストレートが七希のみぞおちをえぐる。
「お前を倒す男だ」
 常識的に考えて、宮坂凱という人間のスペックは、打撃戦において鵺野七希のそれを遥かに下回る。射程、威力、速度。全てにおいて七希は人間の常識を超えた才覚を保有していた。
 だから――宮坂は速さではなく疾さを選んだ。
 避けられないのではなく、避けさせない攻撃を。ゾク時代、誰にも追いつかれまいと、がむしゃらに前を目指し続けた自分のスタイルを。
 彼がアキレス伊波との鍛錬で見出した答えはそれだった。
「ちょこちょこ、うざったい……ッ」
「邪魔なら殴ってどかしてみろ。素人」
「ッ、上等ッ!!」
 七希の内懐からぴたりと離れず、己の射程を保ち、宮坂は執拗に攻撃を繰り返す。

 ――相手の攻撃を受けずに、自分の攻撃を当てる。

 古今東西、闘いの必勝法とはこの至極単純な一文に尽きる。この理想の実現のためだけに、人類は数万年以上にも及ぶ闘いの研鑚を積んできた。
 それをもっとも簡単に実現するのが、相手よりも長い間合いの武器を持つことだ。槍、弓、そして銃はその結果生み出された。
 なかでも銃はもっとも効率的に射程を武器とする殺戮兵器。相手の攻撃の届かない距離から自分の攻撃を当てることができさえすれば、闘争など発生し得ない。あるのはただ無慈悲な虐殺。一方的な殺戮だ。
 が。
 絶対的な攻撃手段を持つ、という事実が、そのまま完全性を証明することにはなりえない。銃を持っていても、殴り殺されることがないとは限らない。
 あらゆる間合いを無制限に捉え撃ち抜く攻撃。そしてあらゆる攻撃をまるでものともしない防御。天が少女に与えた二物は、七希から格闘家として必須なものを徹底的に奪い去ってしまった。
 ――それは、致命的なまでの距離感覚の欠如。
 間合いを推し量るセンスの喪失という形で現れるこの弊害は、七希が持って生まれた天稟ゆえの決定的な弱点と言える。
 いかなる間合いも侵食し己の腕の中に捉えることが出来たからこそ、七希は相手の攻撃の間合いから逃れる、ということが理解できなかった。
「っっ……いちいち、鬱陶しいッッ!!」
 空を裂いて放たれる裏拳。打ち下ろし気味の軌道でコンクリートのブロックを地面ごと抉り取る破壊力が、宮坂には通じない。七希の懐にぴたりと張り付いたまま、鋭いショートアッパーが同時に七希の腹を抉る。
 修練気法で編まれた鎧の隙間を撃ち抜いて、宮坂の拳が少女の内臓を掻き回す。
 伊波の教えた寸勁を己が技術へと昇華させ、宮坂凱は地上最強に一歩また一歩と迫ってゆく。
 そしてついに、宮坂凱は七希の魔弾を全て回避し、少女の内懐へと達する。
 ねめつけるような青年の視線に、少女の背筋に戦慄が走る。
「っ!!」
「お前が天才で良かった。そうじゃなきゃ――」
 もしも、鵺野七希がただの平凡な世界最強であったなら。
「こいつは絶対に届かなかっただろうからな」
 己の夢、矜持、誇り、それらを掴み、握り込んで、なによりも固く硬く握り締められた拳が――
 少女の腹を、鉄杭の如く撃ち抜いた。


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 受けは不可能の<守護天使>と、対決:不可でも回避を可能とする<影の護り手>。尊大なまでの<自我>に支えられた天才性を示す二つの特技をもつ七希には、白兵も運動も1レベルもありません。これは同時に、彼女は戦闘が始まるとプロットを捨てて移動する以外に立ち位置を動かせないということになります。
 本来なら一方的に相手を殴り付ける無限の射程の攻撃を持ちながら、一度接敵
すると離れることができないという弱点があるのでした。今回はそこをついた宮坂凱の作戦勝ち。
 アキレス伊波とのやり取りによって戦種(スタイル)を得、ゲストとなった宮坂凱のスタイルは、チャクラ◎ フェイト● カタナ。ゾク時代の封印技能<ロケットスタート>を上回る<※ハヤブサ>で七希の懐に潜り込み、<※二天一流>による<徹し><無明剣><チェックメイト>のコンビネーションブロウが炸裂。
 ダメージそのものは素手のためほぼありませんが、装甲値無効の攻撃が徐々に七希の手札を圧迫してゆきます。しかも<守護天使>では相手の移動の妨害も不可能。
 リアクションでは<警報><※合気>によるカンフマスターによって達成値が上昇。七希の切り札、エクスターミネーターも当たらなければ意味はなく、クロスカウンターで反撃を喰らうばかり。
 離れて距離を取れない七希は徹底的に宮坂の攻撃に押されることになります。彼女も完全に自分ひとりに狙いを絞って戦種を固めた相手との戦いは初めてです。危うし七希。

【天下無双・零】 アルティメット・ランブル編 26

■RESEARCH SCENE 18/鵺野七希&???


 ▼

「あー、……痛。乙女の柔肌が台無しじゃないの」
 張り付けた覚醒パッチの上から頬の傷をなぞり、七希はわずかに眉を潜める。木更津イエローエリアのショーウィンドウを覗き込めば、不機嫌そうな顔をした少女が首と頬と指と拳と胸元と、全身の至るところにパッチを張り付けてこちらを睨んでいる。
 あれから毎夜街をさまよい続けているものの、目立った成果は無い。
「こんだけ探してもあの女もどこにも居やがらないし。……ムカつくわね…っ!!」
 苛立ち紛れに自動販売機の匡体に、強烈な回し蹴りを一撃。
 ずがん、という撃音と共に真上に跳ね上がった販売機がショートし、ガラガラと中身を吐き出す。スカートからすらりと伸びた細い脚でその一本を蹴り上げ、掴んでタブを開ける。
「っく……ぷは」
 500mlの中身を一息に飲み干した七希は、放り上げた空の容器めがけ拳を振るう。
 熱塑性樹脂の容器は一撃で紙のようにプレスされ、彼女が撃ち込んだ拳の跡によって壁に張りついた。
「残り、4人……」
 ちゃり、と彼女が放り上げるのはプラチナプレートの一片。崩壊した校舎から拾い上げたものだ。瓦礫の残骸に埋もれ、河上一諾の死体を探すのは困難だったので、とどめを刺す代わりにこれでよしとするほかは無かった。
 この“究極の闘争”の本義は、天武争覇のような単純な武力を競い合う場ではない。形式上バトルロイヤルの形こそ整えては居たが、本戦出場のために2勝、というボーダーラインが設けられていたことや、多く修練を積んだ武術家を招いていたことからも、天武争覇が基本1対1の戦闘を念頭において開かれた場であることがわかる。主催者の千早牙門自身が一人の男との再戦を願って開催したものなのだから、それも当然といえた。
 だが今回の二人の千早雅之に端を発したこの闘争は、些か状況を殊にする。目的が千早グループの社長の証である5枚のプラチナムカード片を奪い合うものなのだから、必ずしも全員が相手を倒すことを目的にしなくてもよい。
 身を潜め、機会を窺う――あるいは、そうして隠密する相手を見つけ狩り出す技術もまた、この闘争においては重用な戦闘能力のひとつだ。
「あーぁ……なんか飽きてきたなぁ」
 情報戦においては、七希はかなりの弱者の部類に属する。闇雲にストリートを歩き回っているだけで他の参加者が見つかるはずも無いのだった。
 参加者のプロファイルには目を通してみたものの、世間の一般常識などディクショナリに頼れば事足りる現代っ子の七希がそこから新しい情報を掴みだすだけの知識もコネも持っている訳もない。
 が――
 それでもなお、七希が眠ることなく深夜の街を徘徊し続けていることには、それなりの理由があった。
 常人離れした少女の聴覚は、背後の地面を擦るスニーカーの靴底の音を捕らえている。摺り足とも普通の歩法とも違う、独特のステップ。
 1時間ほどまえから張りついて距離を保っていたそれは、周囲から人の気配が消えた瞬間、一直線に少女の元を目指して進んでいた。
「ホント、マジで飽きるトコだったわよ?」
 朝靄の中で、少女は足を止めて振り返る。
 木更タタラ街の一角、半分ばかり廃屋の混じったビル街の中に、申し訳程度に設けられた自然公園。バイオプラントで培養された木々を無理矢理移植し、狭苦しいスペースに強引に緑を植えている。
「鵺野、七希」
 濃い緑のパーカーを着、目深にフードを被った男が、確かに少女の名を呼んだ。
 真っ白い吐息が朝の空気に溶けてゆく。己の内側に溜め込んだ圧倒的な熱量を少しずつ吐き出すように、男はゆっくりと顔を上げる。
「――この前は世話になったな」
 しずかにフードを跳ね上げ、宮坂凱は静かに七希に向き直った。




 ▼

「……なんだ。アンタか」
 静かに闘気を滾らせる宮坂に対し、七希が見せたのは露骨なまでの落胆だった。果たして、バンタム級世界チャンピオンに対してそんな態度を取れる人間がこの世界にどれほどいるというのだろう。
「ここであんたと決着をつけたい」
「冗談。いまさらアンタなんか相手にしてる暇ないっての。こっちは忙しいのよ。妄言なら一人で言ってなさい」
「……これを見ても、それが言えるか?」
 背を向けて歩き出そうとした七希に対し、凱が掲げたのは、うっすらと輝くプラチナムのチケット。
 この、究極の闘争への参加権。
「へぇ……」
 七希は侮蔑に目を細める。
「アンタみたいなのに頼らなきゃいけないなんて、そっちの社長さんて、相当信用ないんじゃないの?」
「いいや」
 はっきりと、宮坂は少女の言葉を切って捨てる。
 そこには、歳下の娘に完膚なきまでに敗北した男の姿は無い。
「俺は、お前を倒すために、メンバーに選ばれた」
「……なにソレ」
 不機嫌に声を沈める七希に対し、宮坂はあくまで冷静を保つ。
「笑えない冗談ね」
「まったくだ。小娘ひとり倒すのに、世界チャンピオンが出張るなんてな」
「……あのさ」
 ぶちり、と唇を噛み千切り。七希は憤怒の形相に顔を歪める。
「それ以上下らない台詞喋り続けると、死ぬ確率増えるだけだって解ってるッ?!」
 言葉と共に閃光が炸裂する。
 宮坂の腹、顎、こめかみをえぐる6連の魔弾――防御不可能の少女の暴力を、しかし宮坂はその寸前で全て回避していた。
「――ッ!?」
「単純な理屈だ。気付かないほうがどうかしてた」
 そればかりか、少女の右顎にはたくましい拳がひたりと添えられている。来る日も来る日も、ただただ愚直にサンドバッグを叩き続け、鍛え上げられた宮坂の拳骨。
 す、と拳を引き戻し、ピーカブースタイルに構えた宮坂は、七希を見据えて言葉を吐く。溜め込み続けた熱量を、一気に吐き出すように。
「舐めるな、ガキ」
 刹那、
 疾風のように宮坂の攻勢が始まった。


 アルティメット・ランブル第六戦。
 鵺野七希 VS 宮坂凱 ――開始。



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 因縁の対決、開始。

【天下無双・零】 アルティメット・ランブル編 25

■RESEARCH SCENE 17/サイクロプス&遊月ひなた


 ▼

 彼は、サイクロプスと呼ばれていた。
 本名は不明。性別、年齢不明。国籍、出生、経歴、無し。
 プロファイルにおいてはすべてが「NOT FOUND」を示す、Xランク。
 それは、彼がもともと存在しないところから産まれた生命であるからであった。数年前にN◎VAを騒がせた連続猟奇殺人事件――都合28人の被害者の身体から、それぞれ全身のいずれかが持ち去られるという痛ましい事件の犯人であった一人の研究者が生み出した人造人間。
 28人分の死体を継ぎ剥ぎにされて産まれたのは、自分が誰なのかも解らない歪な生命体だった。
 ヒトのものとは明らかに異なる異形の左腕は、容易くヒトをちぎり殺した。中指と親指と、その間にある二本の指の持ち主はそれぞれ違う。胸も腰も4人分の身体を縫い合わせたものだし、脳では全部で8人が入り混じっている。
 左右に移植された眼球のうち、右眼はひどい老眼で、白内障も発症していたためロクに使えない。残された左眼は、酷使のせいで真っ赤に腫れあがっている。

 自分は、誰か。

 ときにバラバラになりそうな28人の自我が入り乱れた不安定極まりない自分を、辛うじて支えながら――サイクロプスはここにいる。このアルティメット・ランブルに参加し、失われた『自分』を得るために。
「…………」
 暗闇のなかで身を起こす女をじっと見つめ、サイクロプスは口を開く。
 歯と舌と左右で別人のものである唇は、よほど調子がいい時でないと上手く聞き取れる言葉を発せられない。
「出ていけ。……それでないと、殺す」
 案の定、彼の唇が紡いだのは唸り声と大差ない耳障りな音だった。
 それでも女はこちらが反応を見せたことにいくらか驚いたように、刃を止める。
 不意を討たれて驚いたが、あのカタナも、刺さる場所がよほど悪くなければまずサイクロプスにとっては致命傷にはならない。仮にあれが銃でも似たようなものだった。
 彼の創造主が殺戮の果てに選びぬいた28人の死体は、ささいなダメージで動作を損なわないような“逸品”なのだ。

 ちゃり、と胸元で、3枚のプラチナムカード片が重なった。
 一枚は彼自身のもの。あと2枚は彼が自身の領域で対戦者から奪ったものだ。

 サイクロプスには戦う理由がある。他の人間を皆殺しにしてでも欲しいものがある。
 彼はこの暗闇に、相手の陣営の戦士2人を引きずりこんで殺していた。あと3人、3人を始末すれば、サイクロプスは『自分』を得ることができる。
「……逃げないのか」
 ほとんど自嘲のようにサイクロプスは言った。
 自分を見て、人間がする反応はふたつ。化け物と罵って、逃げるか――殺そうと追い立てるか。
 この女は後者だ。そう確信すると、サイクロプスは左腕を持ち上げる。緩慢な動作だが、たとえ最新鋭のパワーアシストアーマーとだって打ち負けない自信があった。
 対する女は、妙な構えを取った。抜き身の白刃を腰の横に構え、もう一方の手で鞘を押さえる。まるで――納刀しない居合い。
 その構えのまま、女はためらうことなくサイクロプスを見た。
「ただちに抵抗を止め、武装解除して投降しなさい。さもなくばこちらの指示に従う意志無しと判断し、武力制圧を試みます」
 まっすぐに――
 まるで、彼が、サイクロプスが、
 人間ででもあるかのように。
「――器物損壊、障害、殺人未遂、公務執行妨害――その他諸々併せて、推定罪刑懲役138年」
 この災厄のニューロエイジ。秒単位で法が改正され犯罪が定義されるこの時代。刑法は恐ろしいほどに複雑化し、ありとあらゆる存在に対して刑罰が定め直されている。オメガシステムが失われた今、それを正しく把握しているのはごく一部だ。しかし彼女はその全てを暗記しているかのようによどみなく喋る。
「ランクの無い貴方には弁護士を呼ぶ権利も、黙秘権も、裁判を受ける権利も残念ながらありません。ですが――高等特務警察ブラックハウンド二等巡査、遊月ひなたの権限において貴方を確保します」
 駆除。排除。ぶっ殺す。
 そんな単語は、一切使わずに。
「投降の意志無しと判断。鷲宮双天流、遊月ひなた。――参る」
 遊月ひなたは、厳かにサイクロプスとの対峙を宣言し、
 その罪を償え、と。そう言ったのだ。
 彼女は決意していたのだ。この地下区画のなかに助けを求める者が居るのであれば、一人でも多く連れ帰るのだと。





 ▼

 交戦は5分と続かなかった。
 地面に伏したひなたは力無く地面を掻き、もがく。撃ち込まれた巨大な拳を避けきれず、壁に激突。衝撃で内臓がひっくり返り、まともに息もできないまま嘔吐する。
 動けないひなたを、真上から真っ赤な単眼が覗き込んでいる。
 しかし、不思議とそこには殺意は無く――
 なぜか、その瞳は濡れているように、ひなたには思えた。
 ボロボロに擦りきれたコートと、四方八方に伸び放題の髪の隙間から、唸り声のような台詞が聞こえた。

 死なないように殴った。でも、うまく手加減できなかった。
 あんたはそんなことができないくらい強かった。
 しばらくそこで大人しくしていて欲しい。


 なぜか、ほとんど聞き取れないはずなの彼の言葉は、そう聞こえた。
 コートの背中が小さく震える。どうも、わずかに頭を下げたようだった。擦りきれたコートの裾を引きずって、彼が背を向ける。
「・・…っ、待ちな、さい……っ!!」
 もがくひなただが、立ちあがることはおろか這いずることも出来なかった。
 放り出していた死体を担ぎ上げ、暗闇の中、コードや配管を掻き分けた彼は通路を飛びあがり、排気のための細い通路に這いずりこむ。
 最後にひとこと。
「……ありがとう」
 そう、言葉を残して。
 その感謝が何に対して捧げられたものなのかも気付けないままに、ひなたの意識は闇に飲まれた。


 アルティメット・ランブル番外戦

 ×遊月ひなた VS サイクロプス○
 遊月ひなた――気絶



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